これは彼女が、福島にある学校で寮生活を送っていたときの話だ。
その学園にいたのは、1年という短い間だったのだが、数度にわたり妖怪や幽霊と出会ったうちの1つである。
彼女の部屋は2階にある4人部屋であり、その内の1人は彼女と非常に仲の良い友人であった。
ある綺麗な月明かりの夜のこと、その部屋で怪異は起こった。
Nさんは寮にある自室で眠っていたのだが、不意に彼女は目が覚めた。
(…トイレに行きたい)
彼女はぼんやりとしている頭の中でそう考え、友人を起こさなくてはと思った。
Nさんは昔からトイレに行くのが恐ろしかったという。
昔から怖かったらしいのだが、霊感が目覚めてからはさらにその傾向が強くなり、その頃は必ず友人と一緒にトイレに行くようにしていたそうだ。
友人の方に視線を向けた瞬間、Nさんは一瞬たじろいだ。
(…誰か居る)
友人が眠るベッドの前に、窓から射す月明かりに照らされた、ワンピースを着た見知らぬ女性がフローリングに横座りして、変な踊りを踊っていた。
それだけではなく、踊る女性の顔にはパーツがなかった。
(のっぺらぼう!?)
夢かと思い自分の頬をつねるが、頬の痛みがこれは現実であると告げるばかりである。
だが、恐ろしいと思ったのは最初だけであった。
のっぺらぼうを見つめていると、次第に彼女が幻想的に見えてきたのだという。
(すごく綺麗…)
顔がなく、不可思議な踊りを踊っている女性。
彼女にNさんは、見入ってしまったそうだ。
そして、つい彼女に近づいてしまった。
その瞬間、和やかであった空気は一変した。
Nさんの体に、生命に危険が近づいている感覚が走った。
空気が変わったのを感じ取ったNさんは、すぐさま女性に背を向けて自分のベッドに体を飛び込ませた。
そして、恐る恐る視線だけを、女性がいた辺りに戻した。
そこには、もう女性の姿はなかった。
この時、ワンピースの女性はNさんに向かって鋭い気配は放ったが、襲ってはこなかった。
(何でだろう?)
彼女はそう考えていた。
しかし、その後から部屋には生首が出現するなどの怪異が襲うようになったという。
それ以来、のっぺらぼうの女性は現れていないそうだ。
「幻想的でしたし、もしかしたら、あの女性は部屋の守り神だったかもしれないんですよね。悪いことをしちゃったかな」
Nさんはばつが悪そうに話してくれた。
(監修:山口敏太郎事務所)