トニービンとの間に生まれたエアダブリン、サンデーサイレンスとの交配ではダンスパートナーにダンスインザダーク、そして今回紹介するダンスインザムードを出産している。
優秀な兄姉を持つ超良血馬。しかも、配属されたのは日本一の藤沢和厩舎だ。まるでGIを勝つことを宿命づけられたようなきらびやかな背景に、デビュー前から大きな注目を集めたのはいうまでもない。
2、3歳時はそんな期待にたがわぬ走りを見せた。2003年暮れにデビューすると無傷の4連勝で桜花賞を圧勝。夏には米アメリカンオークス、秋には古馬に挑んだ天皇賞、マイルCSでそれぞれ2着と素晴らしい成績を残した。
だが、4歳春に思わぬスランプを迎える。安田記念はシンガリ負け。夏の札幌でクイーンS8着、札幌記念12着と惨敗した後は、繁殖としての期待もあっただけに早期の引退までささやかれた。
しかし、藤沢和調教師はあきらめなかった。結果が出ないのは能力的なものではなく、精神面が原因と見極め、プール調整などでリラックスに努めた。そのかいあって天皇賞・秋3着、マイルCS4着と復活の兆しを見せた。
そして迎えた06年、第1回のヴィクトリアマイル。前走のマイラーズCでダイワメジャーの2着と、さらに調子を上げていたムードは2番人気に支持された。道中は5、6番手の絶好位。直線は内の狭いところを巧みに抜け出し、追い込んだエアメサイアに1馬身1/4差をつける圧勝だった。桜花賞以来、実に2年ぶりのV。鞍上の北村宏にとってもこれがうれしいGI初勝利となった。
所属騎手として藤沢和厩舎を支えながら岡部、横山典、武豊、ペリエ、デザーモといった超一流の陰に隠れて結果を出せずにいた。マイラーズCでムードに騎乗した武豊がメサイアを選んだためめぐってきたチャンス。それを見事に生かす好騎乗だった。