札幌市が提案した新球場の候補地は、2か所。八紘学園所有地と産業共進会場(通称:月寒ドーム)の跡地を合わせた約13ヘクタールと、北海道大学構内の北側か西側の土地約10ヘクタール。交通網の利便性では、どちらも北広島市の提案箇所よりも勝っている。札幌市が提案書を出したということは、両校が所有地の売却を了承したわけだが、ここに至るまでさまざまなことがあった。
「北広島市が提案した36ヘクタールの土地か、札幌市が提案した八紘学園側か、北大側の土地、その3択になります。選ぶのは日ハム球団ですが、札幌市提案のいずれかが選ばれた場合、札幌市がまず土地を学校側から買収し、少し割引きして、球団に買ってもらう段取りになっています」(地元メディア陣の一人)
八紘学園、北大ともにスンナリとはまとまらなかった。八紘学園・木村理事長の言葉を借りれば、「新球場建設に対する公共性」に疑問があったという。同校は理事会に諮って売却案を受け入れたのだが、札幌市が球団に提案書を届けた後、こんな発言もしている。
「札幌市が公共事業として進めるのなら…」
これは地元テレビ局の単独インタビューで出た発言。その奥歯のものの挟まったような物言いに、TVレポーターが「今後の協議次第では『NO』を突き付けることもあるのか?」と問いかけると、木村理事長は「もちろん」と言い切った。
プロ野球球団という一企業の球場建設計画に公共性があるのかどうか、改めて疑問を投げ掛けたのと同時に、札幌市行政にさらなる説明を求めたわけだ。また、北大の名和豊春総長もメディア取材でこう答えている。
「研究と教育をし、市と道民に貢献したい。球場に何が附帯してくるのか、それによって北海道が良くなるのなら積極的にやっていくが、そんな提案が(札幌市から)何もないので…」
八紘学園、北大ともに札幌市が球団に提案書を届けた後にそう発言している。
地元行政に詳しい財界人によれば、八紘学園の所有地が選ばれた場合、地下鉄福住駅までの公道を拡充する必要性も出てくるという。その公道周辺の土地所有者も八紘学園だ。
「公道の拡充がなければ、近隣住民のクルマの出し入れなど、日常生活にも影響が出ます。札幌市と八紘学園側に全ての可能性を伝えたのかどうか…」(同財界人)
Jリーグがとくにそうだが、プロスポーツチームのある地元行政は、それをどう活用するかが問われる。単にスポーツ興行で人の往来が増え、近隣商店街にお金を落としていくという抽象論だけではダメなのだ。プロスポーツチームをキラーコンテンツとして活用し、公共事業や地域産業の発展契機につなげていく“行政計画”を立てなければならない。
日本ハムは、地元行政、企業との結びつきの先駆者でもあるメジャーリーグチームに職員を派遣し、スポーツマネジメントをあらゆる角度から研究している。札幌市を不甲斐ないと見ているのではないだろうか。
秋元市長は議会で「一企業を超えた地域密着の球団は公共性を持つ」と話していたが、もっと具体的な行政案を立て、学校側と話し合わなければ、北広島との開きは永遠に埋まらないだろう。
(第一章了/スポーツライター・飯山満)
※写真・札幌ドーム