横綱審議委員会・鶴田卓彦委員長は「素晴らしい成績だ。これなら問題ない。日馬富士は予想以上に強くなった印象だ。東西に横綱が揃うと番付の形がいいし、面白くなる。白鵬との2強時代が来るかもしれない」と太鼓判。北の湖理事長(元横綱)も、「理事会を招集する。精神的に大変な重圧があっただろうが、よく乗り越えた。上がったら自然と風格が身につく。今の形を崩さず、責任を果たせるよう頑張ってほしい」と評価。
この結果、日馬富士の横綱昇進が確実となった。24日の横綱審議委員会を経て、26日の臨時理事会で正式に第70代横綱が誕生する。外国人力士としては、史上5人目となる。
10年初場所(1月)後に朝青龍が引退して以降、実に2年と4場所の長きにわたって、白鵬が1人横綱で奮闘した。横綱が2人になることで、白鵬1人にかかっていたプレッシャーも緩和され、より土俵の充実が期待される。
ところで、横綱昇進が確実となった日馬富士だが、関係者内では早くも数々の不安要素が取りざたされている。
それは、まず、「ここ一番」の弱さ。日馬富士は3度目の綱獲りでようやく、悲願を成し遂げたが、1度目の綱獲り場所では9勝6敗、2度目の綱獲り場所では8勝7敗と、いずれも1ケタ台の星に終わった。新大関となった場所も8勝7敗で、プレッシャーに弱いところを露呈した。新大関より、さらにプレッシャーがかかる新横綱の場所で、日馬富士が本来の相撲を取れるかどうか、不安視される。
また、浮き沈みが激しい不安定な成績も、心配要素。09年夏場所(5月)で初優勝した後、3場所連続で9勝6敗に終わった。11年名古屋場所(7月)で2度目の優勝を果たした後は、8勝7敗が2場所続いた。今年夏場所(5月)でも8勝しか挙げていない。たまに爆発して優勝することもあるが、それ以外の場所は冬眠しているかのような相撲しか取れていない。その“病気”が横綱になって出ないかどうか、不安も覗かせる。
さらにいえば、今場所、3大関が途中休場して、その分、対戦相手が下位力士にすり替わった点。休場した大関との対戦成績は、把瑠都と14勝12敗、琴欧洲と18勝17敗とほぼ互角。琴奨菊とは14勝25敗と大きく負け越している。この3大関が休場していなかったら、優勝できたどうか疑問は残る。来場所は5大関相手に、横綱らしく圧倒できるかどうかも心配だ。
そして、関係者が危惧するのは、その人気面だ。某協会関係者は「横綱が2人になるのは喜ばしいのですが、日馬富士の綱獲りで、観客動員が大きく増えたということはありません。朝青龍・白鵬時代のような盛り上がりは期待できないでしょう」(某協会関係者)と嘆く。今場所千秋楽のNHKでの相撲中継の視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)は17.7%、瞬間最高は日馬富士が白鵬を破った場面で24.4%だった。
大混戦となり平幕・旭天鵬が史上最高齢優勝を果たした夏場所千秋楽(5月20日)の視聴率は20.4%、瞬間最高は24.5%だった。綱獲りが懸かっていても、夏場所千秋楽より視聴率が低かった事実は深刻。いかに日馬富士への注目度が、低いかの証明となってしまった。
新横綱誕生は日本相撲協会にとっては、喜ばしい話だが、数々の不安要素が現実とならないことを祈るばかりだ…。
(落合一郎)