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大手ゼネコンがほくそ笑む「新国立競技場」建設費“バカ高い”まま3つのワケ

 “ドンブリ勘定”と非難された東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の建設計画が白紙撤回され、政府が来年1月に業者を選定して2020年春の完成を目指すことになった。国際コンペでイラク出身のザハ・ハディド氏の案が決まったのは、五輪招致決定前の'12年11月。当時の総工費は1300億円とされていた。
 ところが招致決定('13年9月)を機に事業主体の日本スポーツ振興センターが精査した結果、巨大な2本のキールアーチ構造や開閉式屋根が複雑なことから総工費が3000億円に膨らんだ。これに非難が殺到、'13年11月に計画を縮小することで1852億円に圧縮し、翌'14年1月には資材を見直すことで1692億円まで減額した。さらに基本設計を再検討することで、'14年5月には1625億円まで引き下げた。

 当初計画(1300億円)に比べればまだ割高だが、3000億円の“高騰ショック”から半年後とあって世間の目に「これなら許容範囲」と映ったのは間違いない。
 それが一変したのは今年の7月。日本スポーツ振興センターがあらためて精査した結果、総工費が2520億円になると発表した。これを機に価格暴騰の“犯人探し”が始まり、テレビのワイドショーがセンセーショナルに報じたのはご存知の通り。政権の命取りになりかねないと危惧した安倍普三首相が計画の白紙撤回と「ゼロベースでの見直し」を余儀なくされたのは7月17日のことだ。
 その基本方針は開閉式屋根の設置を見送り、併せてフィットネスジムなど商業施設の整備を取りやめるなど簡素化を図り、総工費を「1000億円台半ば」まで圧縮し、収容人員は以前の計画通り8万人規模とすること。要するにデザインこそ当初の構想とは似ても似つかない公算が大きいが、こと総工費に関しては“志”を受け継ぐと宣言したに等しい。

 問題は1000億円台半ばに設定した政府のハードルが高いか低いかだ。巨大構造物の総事業費で言えば、東京スカイツリー650億円、横浜国際総合競技場603億円、大阪ドーム696億円、札幌ドーム537億円、福岡ドーム760億円…。工費だけでなく全てをひっくるめたこれらの額との比較でさえ、新国立は突出している。
 「結局、最終的に費用がいくら掛かったのかは、完成してからでなければ算出できません。六本木ヒルズの総事業費は当初予定を500億円も上回りました。政府が唱える1000億円台半ばの数字は、当面のガス抜き見たいなもの。それどころか、ゼネコン役員は『最終的に3000億円の大台を突破する』と、妙な太鼓判を押しています」(証券アナリスト)

 これには伏線がある。ゼネコン関係者によると技術協力者として早い段階から新国立の実施設計に関与した面々は「1692億円とか1625億円で建設できるわけがないと豪語、それが今年7月の2520億円に引き上げられた原動力だった」と指摘する。
 その理由は大きく3点ある。一つは資材の高騰だ。東京はウオーターフロントを中心に超高層ビルの建設ラッシュが相次いでいる。そこへ新国立の建設が始まれば大量の鉄骨が必要になり、これが価格高騰を煽り立てる。
 第2点は深刻な人手不足だ。高層ビル等の建設には優秀な人材が欠かせない。これを確保するため各社は協力会社の班長、上級技能者に対する手当面での優遇策など“囲い込み”を避けることができない。大成建設では優秀な現場リーダーに上乗せ手当を1日1000円支給しているが、秋からは3000円に引き上げる予定。当然、人件費は膨らむ一方だ。
 第3の理由はもっと悩ましい。計画を白紙撤回した手前、今度ばかりは失敗が許されない。しかも'20年春までには完成させなければならない。この“縛り”がある以上、政府はゼネコンから足元を見透かされ、それこそ「堂々たるゴネ押しがまかり通る」(関係者)。金もうけに目がないゼネコンがほくそ笑みながらシャシャリ出れば、建設費が青天井に近い形で膨張する仕掛けだ。勢い3000億円の大台超えが現実味を増す。

 総工費が2520億円に見積もられた時点で施工予定者だったのは、スタンド工区の大成建設(1570億円)と、屋根工区の竹中工務店(950億円)だった。仕切り直しの今回、両社とも受注に意欲的だが、他社も虎視眈々と狙っている。その分、入札競争は一段と激しくなる。ゼネコン・ウオッチャーは「談合が幅を利かせた昔と違って今や天の声が働きにくい」と苦笑する。
 このまま再び建設費が膨れ上がるようなら、それこそ“ドンブリ勘定”は“お・も・て・な・し”以上に世界中に知れ渡る。

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