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私はこうしてお客様に落とされた 〜桜瀬 小夏・キャバ嬢(21歳)〜

 「小夏ちゃん、こういうことはヘルプがしないといけないのよ?」

 優しい口調で言いながら、灰皿を取り換える先輩キャバ嬢。…が、目はまったく笑っていない。

 「ごめんなさいね、このお仕事にまだ慣れてないみたいで…」
 「いいよ、いいよ。俺らからしたらまだまだ子供みたいなもんじゃん、この子」

 先輩キャバ嬢とお客さんが大笑いする中、私はひとり、グラスを持つ手が震えるのをもう片方の手で必死に抑えた。というより、そうでもしないと、今すぐにでも、この場にいる人間に向かってグラスの中身をぶっかけてしまいそうだったから。

 「ああ〜! 本当にむかつく!」
 「本当に嫌味しか言わないよね、あの人」

 ロッカールームに逃げ込み、同じ時期に入ってきた(唯一の理解者である)女の子とふたり、女特有の愚痴をこぼしあっていた。

 「大体さ、指名されたくらいでヘルプに偉そうじゃない?」
 「本当にそう! 別にお前の客を取ろうなんて思ってないし!」

 数十分、こんな愚痴り合いをしてスッキリしたところで、ボーイの子にヘルプで呼ばれたので、私たちは何事もなかったかのように仕事へと戻る。…ええ、また同じ先輩キャバ嬢のヘルプとしてね。

 「あれ、初めて見る顔だな」

 席につくなり、お客さんが珍しげに私の方へと興味を示した。その瞬間、先輩キャバ嬢がおもしろくなさそうな顔をしたのを私は見逃さなかった。もう、お願いだから放っておいてください…(涙)。

 「最近入店してきた子なんです。このお仕事が初めてみたいだから、粗相ばかりしちゃうけど許してあげてね?」

 ほら、いつもの嫌味攻撃が始まったじゃないの…。

 「何言ってんだよ、お前がこの店に来たときはもっとひどかったぞ?」
 「ええ〜、そうでしたっけ?」
 「俺を本気で怒って帰らせたことがあるのは、お前くらいじゃないか」

 みるみるうちに、先輩キャバ嬢の顔が赤くなっていくのがわかり、何か言葉を発するべきか悩んでいると。

 「誰でも最初はそうなんだよ。…でも、今や立派なキャバ嬢になったこいつに、わからないことは何でも聞くんだぞ? 気がキツそうに見えるけど、本当はお節介なくらい世話焼きなんだから」
 「ちょっと、余計なこと言わないでよ〜!」

 照れる先輩キャバ嬢を横目に、そう言ってくれたお客さんは私に名刺を渡してくれた。また、今度3人で飯でも行こうなって。

 当たり前だけど、プライドが高い女の世界に対立は付き物。でも、男性が一番嫌がるであろう、女のドロドロとした世界に自ら足を踏み入れたうえに、何とかしようと動いてくれる姿に、自分でもびっくりするくらいときめいちゃった。

取材・構成/LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。その後、これまでの経験を活かすため、フリーランスへ転身。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
http://ameblo.jp/lisa-ism9281/
https://twitter.com/#!/LISA_92819

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