この「ポスト真実」は単純なデマや、その延長線上にとらえられない、いわば「都市伝説」のようなもので、たとえば架空の権威的背景を持つ偽書であったり、または政治風刺のブラックユーモアという形をとることもある。重要なのは情報の真偽よりもその解釈であったり、あるいは「もっともらしく社会の不公平感や不信感を刺激する」ことだったりする。前回の「アイアンマウンテン報告」はその典型で、アメリカという国家(連邦政府)は「自己存続のため戦争を必要とする」という内容の政府機関がまとめた調査報告という触れ込みで、多くの人々が衝撃を受けた。
報告書によれば…。
戦争は国家や社会のためにあるのではない。逆に国家や社会こそが、戦争のために存在している。戦争がなくなれば、今のような国家は消滅する。戦争には、戦闘以外の重要な非軍事的機能がある。しかもそれは社会にとって本質的であり、必要不可欠な機能である。戦争は経済を安定させ、社会をまとめ、階級と貧困を維持し、人々に目的意識を与え、反社会勢力を押さえ、人口を制御し、文化と科学の発展をうながす。こうした機能を一つでもまともに代替できる仕組みは、いまのところまったくない。かろうじて可能性のあるのは、無駄な宇宙探査計画や、公害の悪化、試験管ベビーと優生学の徹底、人種差別と人狩りと奴隷制の復活くらいである。したがって戦争を廃止するのは望ましくない。平和は危険である。安易に平和に移行すれば今の社会は崩壊の危機に瀕しかねない。…ということなのだ。
しかし、後にレナード・リュインが著者として名乗りをあげ、アメリカ政府とは無関係のフィクションであることが明らかになった。当時の状況や関係各方面の証言などからも、創作物であることはほぼ間違いないのだが、国民の一部がなんとなく抱いている不公平感や不信感を裏打ちする内容であったため、現在もなお「政府機関がまとめた報告書」であると、頑なに信じている人々がいるのだ。
(続く)