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今年も捕手指名? スカウト会議で見えたトラの覚悟

 夏の甲子園大会、たけなわ。その熱戦の地に隣接する球団事務所で、阪神タイガースが定例のスカウト会議を開いた(8月14日)。この時期、どの球団もスカウト会議を開く。甲子園視察を経て、お目当ての選手の成長具合、試合展開を読む力など、各スカウトが“中間報告”を行い、指名候補選手を絞り込むためだ。

 その会議後、佐野仙好統括スカウトがメディアの質問に応じ、一部の上位候補名を明かした。
「キャッチャーは、補強ポイントのひとつ。打撃、肩の強さなど、抜けている。体も大きいし、プロの練習にも耐えられるはず。(上位指名候補の)12人のうちに入るだろうね」

 これは、「今夏の大会で評価を高めた選手は?」の質問に対し、広陵の中村奨成捕手の名前を挙げ、答えたもの。中村はすでに「強肩堅守の捕手」として知られていたが、同11日の中京大中京戦では2本塁打を放ち、「強打の捕手」であることを改めてアピールした。中村が強い印象を残したのは間違いないが、ファンの間で、阪神は「キャッチャーコレクター」とも揶揄されている。高校卒の捕手を本当に育てられるのだろうか。

16年 長坂拳弥(東北福祉大)7位
15年 坂本誠志郎(明治大) 2位
14年 (捕手の指名なし)
13年 梅野隆太郎(福岡大) 4位
12年 小豆畑真也(西濃運輸)4位
11年 廣神聖哉(独立L・群馬)育成1位
10年 中谷将大(福岡工大城東高)3位
09年 原口文仁(帝京高)6位
08年 (捕手の指名なし)
07年 (捕手の指名なし)

 他のポジションにコンバートされた選手もいるが、育成を含め、過去10年間で7人の捕手を指名している。今季は梅野がもっとも「先発マスク」が多いが、74試合(12日時点)。坂本も頑張っており、両捕手の併用といったほうが正しいだろう。

 チーム関係者の一人がこう言う。

 「金本(知憲=49)監督の言葉を借りれば、(1年で)100試合以上スタメンで出て、初めて正捕手と呼べると…。正捕手を育てている段階であり、また、正捕手が育てば、向こう10年、チームは安泰なんですが…」

 「100試合以上」の条件を満たした捕手は、13年の藤井彰人(現育成コーチ)以来、出現していない。かつて、高校からプロ入りした元捕手がこんな話をしてくれた。

 「今日は自分にサインを出させてくださいと言ったら、先輩投手に怒られましたよ。こっちは生活が掛かっているんだ、ガキの教育に付き合ってらんねえよ、と。この状況は入団してから3年くらい続きました。大学卒、社会人を経験した捕手は新人のときからサインを出しても、子ども扱いされませんが」

 この傾向は優勝を狙うチームであれば、とくに強いという。過去10年で7人もの捕手を指名しながら、正捕手不在。トラの正捕手というと、矢野燿大現コーチのイメージも強いが、同コーチもトレードでやってきた“外様”だ。そう考えると、80年代後半に活躍した木戸克彦氏以降、生え抜きの正捕手が育っていないことになる。

 「中村クンですが、どの球団も上位指名を考えていると思います。ただの強肩堅守の捕手ではありません。『強打の捕手』になれる逸材だからです」(在京球団スタッフ)

 阪神がスカウト会議を招集した前日、巨人・阿部慎之助が史上49人目となる2000本安打を達成した。近年は一塁手だが、阿部以降、強打の捕手は出現していない。別の見方をすれば、正捕手を育てる難しさをもっともよく分かっているのは阪神である。それでも、「中村の上位指名」を口にしたのは、捕手育成に今まで以上に時間を費やす覚悟を示したのではないだろうか。

 先のチーム関係者によれば、正捕手育成を託された矢野コーチは、試合後、ベンチ入りした捕手全員を集め、同日の試合開始からゲームセットまで、どの球種をどのコースに投げたのか、全投球をチャート表に書き込ませるという。「忘れた、思い出せない」とは言わせないそうだ。チャート表とは、ストライクゾーンを9分割した図表のことで、球種は「○」「△」「▽」など球団規定のマークを使い、どのコースに何を投げたかを残しておくもの。矢野コーチは全投球を書き込ませた後、「なぜ、この配球で(相手バッターに)打たれたのか」を講義する。そして、「次の対戦で失敗しないためにはどうすればいいのか」を一人一人に考えさせているという。

 ほぼ毎試合行われているとのことだが、1年で成長する捕手もいれば、一人前になるまで3年以上掛かる捕手もいるそうだ。

 広陵・中村のような逸材は欲しい。しかし、正捕手を育てるためにもっとも必要なのは、首脳陣の根気のようだ。(一部敬称略)

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