ソーマジックのケイコ役・高木助手が「敵は目の前の馬」と言えば、「強敵は自厩舎の馬」と語るのはレッドアゲートのケイコ役・町田助手。自厩舎同士にして、この火花の散りよう。ハイレベルな2頭を送り出す田村厩舎ならではの光景である。
甲乙つけがたいとはまさにこのことだが、トレセン内で多く耳にするのは、「オークス向きはレッドアゲート」という声だ。血統は父マンハッタンカフェに、母系にはウィナーズサークル(1989年)、アイネスフウジン(90年)と2頭のダービー馬を輩出したシーホークがいるバリバリのスタミナ配合。そして、樫と同条件の3走前の1東・500万戦がその根拠を決定付けた。
結果は4着だったものの、芝2400m2分26秒4の走破時計は過去10年間のオークスの勝ち時計に照らし合わせても4番目に位置する速いもの。この一戦…平場とはいえ、その後、1着だったマゼランが青葉賞後に故障が判明するなど、相当“タフ”なレースだった。町田助手はこう振り返る。
「上位陣で“生き残った”のはウチの馬だけ。あの時季にあれだけの速い時計で走れば、マゼランが故障するのも無理はない。運良くウチのは出遅れて競馬をしたのは直線だけだったから」
もし、ポンとゲートを出て先団の叩き合いに加わっていたらと思うとゾッとするが、運も実力のうち。ツキがなければクラシックの頂点には立てない。その後、レッドアゲートはフラワーC2着→フローラS1着とトントン拍子に階段を駆け上がった。
「最初からオークス一本だと思っていたし、ここまでは完ぺきにこれている。今は前走以前と比較すると、倍の量のカイバを食べているくらい充実している。あとは相当な強敵がいるから」
その強敵がソーマジックというわけだ。いまだにトレセン内では、「NHKマイルCに行った方が良かったんじゃないか?」という声があるが、過去10年間のオークス勝ち馬は7頭までが桜花賞直行組。対してフローラS組の勝利は2001年のわずか1度だけ。
今度は高木助手が解説してくれた。「この時季の牝馬戦は気性的なものが一番重要。だから、毎年のように桜花賞組のマイラーがオークスを勝っちゃう」クラシック経験馬が有利なことを強調すると、意地悪な外野の声に反発するように、「気難しさはないし、距離はまったく心配していない」と不安をかき消した。
考えてみれば父シンボリクリスエスは青葉賞を勝ち、ダービーで2着。脚を余し気味だった桜花賞の競馬を見ても、距離延長をマイナスにとらえる理由はひとつもない。
「桜花賞は4角を回った時、『8着もないかも』と思ったが、レジネッタにプレッシャーをかけられながらも最後までグイッと伸びていた。それを見て『東京なら』と確信した。桜花賞1、2着馬にはもう負けないと思っているし、敵は目の前の馬。僕はそう思っている」
2003年の阪神JF(栗東・浅見厩舎)以来のGI“親子丼”が現実味を帯びてきた。