リストラの大嵐は何も国内にとどまらない。赤字が続くテレビ事業では、ポーランドやインドネシアの工場を台湾企業などに売却、エジプトの工場も合弁先への売却交渉が進行中だ。
東芝が「周回遅れ」と揶揄されるリストラに突き進むのは、粉飾スキャンダルで経営が急速に悪化したのが最大の理由。このままでは野垂れ死にしかねず、事業切り売りに活路を求めるしかないのが実情だ。言い換えれば米原発子会社ウェスティングハウスに始まる“偽装の連鎖”がなければ歴代3トップが天下に恥をさらすこともなかったし、東芝自体が集中砲火を浴びることもなかった。市場関係者は冷ややかに言う。
「これで室町正志社長が株主訴訟の対象に加えられるとか、3トップともども刑事責任を問われる事態になれば目も当てられない。もう一段のリストラ=事業売却は必至で、中国企業などがホクソ笑んでいますよ」
そんな事態を回避するための先手か、パソコン事業では富士通など国内メーカーと合弁会社を設立する動きがある。白物家電においても、投資ファンドの日本産業パートナーズが画策するシャープとの“弱者連合”案など、水面下の動きは確かに活発だ。
そのシャープも、限りなく視界ゼロという点では負けていない。主力の液晶パネル事業は官民ファンドの産業革新機構がジャパンディスプレイとの統合を目指しているが、その際に債権放棄を求められる公算が大きい銀行は「台湾の鴻海精密工業や韓国のサムスン電子への売却をもくろんでいる」(金融筋)というからまだ目が離せない。
同社の迷走地獄は筋金入りで、2015年の9月28日には大阪の本社ビルを家具会社のニトリHDに売却。その2日後には希望退職に3234人の社員が応じたことが明らかになった。会社が計画した3500人には及ばなかったものの、関係者をあぜんとさせたのはその“フォロー”。11月には全社員を対象に役員20万円、管理職10万円、一般社員5万円と金額を定めて自社製品購入の“特別社員販売セール”を始めたのだ(1月29日まで実施)。事実上のノルマとあって「社員はブーイング一色だ」とシャープ関係者は打ち明ける。
「赤字の山ということもあって市場には『こんなことで年越しできるのか』と危ぶむ向きがいる。これで難破船ネズミを決め込んだ早期退職組がホッと胸をなで下ろすようだと、残った社員はもう悲惨です」(証券アナリスト)
苛烈リストラといえば、その末に“復活”を成し遂げたのがソニーである。'15年9月中間期には1159億円の最終黒字を確保し、5年ぶりで中間期黒字を果たした(前年同期は1091億円の赤字)。経済メディアは称賛するが、現実にはそう褒められた内容ではない。
ソニーは過去12年間で13回に及ぶ驚異的なペースで早期退職募集を行っており、この間に7万人に及ぶ社員が会社の将来に失望して永別している。同社は高給優遇で知られただけに、浮いた人件費負担を考慮すれば、これまで5年間も赤字を垂れ流してきたこと自体が問題なのだ。
ソニーと並んでリストラ路線を突き進んできたのがパナソニックだ。財務が急速に悪化したのに伴い、'12年には東京・御成門の東京パナソニックビル(旧東京支社)を売却。翌'13年には東京支社として保有していた東京汐留ビルを売却した。この間には3万人超の人員削減も行っている。
結果、'15年9月中間期では1113億円の最終利益(前年同期比37.6%増)を確保した。一足早いリストラで東芝、シャープとの違いを見せつけた格好だが、パナOBは今後への不安を隠さない。同社は米テスラモーターズと提携し、ネバダ州に総額5000億円を投じて電気自動車用電池工場を建設する。うちパナは約2000億円を拠出し、テスラ向けの独占供給を目指している。
「ところが韓国のLG化学がテスラに急接近し、パナ排除の動きを見せている。もしはしごを外されたらパナは大ダメージを被り、リストラ効果が帳消しです」(パナOB)
日立は過去5年間で4万人余が飛び出した。三菱電機は「1000人程度」(シンクタンク)と少ないが、電機メーカー受難の時代だけにどこに落とし穴が待っているかは分からない。果たして2016年はどんな風が吹くのか。電機メーカー経営トップは内心、冷や汗ものだろう。