発走直前までスコールのような雨。レースは、行ったもの勝ちとばかり、ピースオブラヴが主導権を奪い後続を5馬身ほど離して逃げる。1番人気のベッラレイアも3番手と離れず追走したが、各馬、道悪の影響で思うように脚が前に出ない。直線を迎えても隊列は大きく変わらず、ピースの逃げ切りかに思えた瞬間だった。
いつの間にやら内ラチ沿いから先頭を射程に入れる泥だらけの馬が一頭。トーホウシャインだ。ラスト100m、ここで初めて馬場の三分どころに出されると、あっさりピースを振り切ってゴール板に飛び込んだ。
「斤量も軽かったし、雨も向きました。内にササる癖があり、ポカッとあいたのでそこを通りました」と高野容騎手。
シンガリ人気で気楽な立場だったとはいえ、道悪巧者のパートナーを信じ、外寄りの8番枠からあえてインに入れて追走。格上馬をひと泡吹かすにはこれしかない、といったロスのない“ドライビング”は2005年10月15日を最後に平地未勝利、今年、騎乗回数わずか43回(15日現在)という不遇なジョッキー生活を送っている24歳の若武者とは思えないほど味があった。
ちなみに、勝ち時計の2分3秒5(重)は、マーメイドSの1時間45分前に行われた500万の牝馬限定戦のそれと同タイム(稍重)。馬場差を加味したとしても、この時計なら1000万で入着がやっとだったシャインが勝っても不思議ではない。むしろ、人気馬たちがそろいもそろって自滅したと見るのが正解だろう。
「前を見たら、(福永)祐一さんの馬しかいませんでした。追いながら、これは重賞なんだ、と気がつきました」と最後に“名文句”が飛び出した高野容騎手。
馬の力を100%出し切るのが騎手の仕事だが、これがなかなか難しい。それを体現した結果が、うれしい2年半ぶりの平地勝利、そして、人馬とも初のタイトル獲得につながった。