両社は昨年、研究開発や生産・物流、人事などで提携関係を強化するなど合併・統合を前提にした“事実婚”に踏み込んだ。要は日産に43.4%出資する親会社ルノーによるグリップ強化である。そのルノーで今、想定外の事態が生じている。同社株の15.0%を保有する筆頭株主のフランス政府が、4月30日に開催する株主総会を前にカルロス・ゴーンCEO(兼日産社長)の経営方針に反発し、真っ向から挑戦状をたたき付けたのだ。
日本の大手メディアは沈黙しているが、注目すべきはその理由である。
フランスでは昨年の法改正で、株式を2年以上保有する投資家には株主総会で否決されない限り、2倍の議決権が与えられる。むろん、1株1議決という従来の制度を維持することも可能。ルノーの株主総会には現行制度維持を求める会社側の案が提出されている。
これに反発するフランス政府は約1600億円の大枚を投じてルノー株を買い増し、保有比率を19.7%まで引き上げ、会社側案の可決を阻止する行動に打って出たのだ。
確かに、ルノーのゴーンCEOとフランス政府は労務対策などをめぐって派手な確執を演じてきた。とはいえ今回の敵対行動は突出する。その背景には、一体何があるのか。
ルノーは昨年12月決算で2565億円の最終利益を確保した。前年比3.2倍の大幅増益である。しかし、日産からの持分利益(約2100億円)がなければ辛くも黒字を確保したにすぎない。それどころか、前年までは実質的な大幅赤字の連続だった。日産・ルノー連合のウオッチャーは冷ややかだ。
「ゴーンさんは去年の総会で再任され、2018年までCEOを続けることが承認された。その際、フランス政府は『日産によるルノー支援を徹底すべし』との条件を突き付けている。日産との提携強化は、その布石に他なりません。今回、総会で対決色を鮮明に打ち出したのは『日産サイドに気兼ねせず、早く完全統合に踏み込め』というアピールですよ」
前述のようにルノーは日産に43.4%出資しているが、一方で日産はルノーに約15%出資し、フランス政府に僅差で及ばないが、それでも大株主2位である。もしルノーの総会で2倍の議決権を与える案が可決されれば、日産の議決権も約30%に達し、一気に発言力が増す。これを阻止する切り札が『1株1議決権』の死守だといえば話は早い。
「ゴーンさんもフランス政府の魂胆は十分承知している。だけど日産の社長を兼務する本人は、角を矯めて牛を殺す行為までは踏み込めない。ルノーが日産支援に乗り出した当時と違って、今のルノーは全てが日産頼み。もし日産に万一のことがあれば、ルノーは間違いなく破綻です」(担当記者)
問題は日産の経営だ。同社は2月9日、北米市場が好調であることなどを理由に今年3月期の業績見通しを上方修正した。しかし、証券アナリストは今後に懐疑的だ。
「世界最大の北米市場で日産は年々シェアを拡大しており、担当役員は目標に掲げるシェア10%達成が視野に入ったとして“ホンダ超え”に自信を見せている。日本勢としてはトヨタに次ぐ第2位躍進を意味しますが、その裏では業界平均を大幅に上回る販売奨励金を惜しげもなく注ぎ込み『ディスカウントセール』と皮肉られている。シェアを追う余り“たたき売り”にまい進すれば利益率は大幅に低下します」
北米だけではない。日産にとって中国は世界販売の2割を占める主戦場の一つだが、いまやジリ貧が続いている。反日感情に加えて、大変な誤算もある。ゴーンCEOは自分の地位を脅かしそうな実力者を次々と外部に追放してきたことで知られるが、その1人がプジョーシトロエングループのトップに就任し、よりによって日産と提携している東風汽車と提携した。結果、東風汽車が日産と距離を置き始めたのだ。揚げ句に3月の『消費者デー』では恒例となった国営テレビの特番で修理対応のまずさがヤリ玉に挙がる始末。これでは中国での市場奪回作戦が空回りする。
「鳴り物入りで投入した電気自動車『リーフ』だってHVの後塵を拝したばかりか、究極のエコカーの座を燃料電池車に奪われている。日本では『コストカッター』で鳴らしたゴーン社長の賞味期限がとうに切れていますが、本人はそのことに全く気付いていない。日本でも後釜を狙いそうな人物をパージしたことから、日産幹部連中は陰で『さっさと辞めてくれないか』と真顔で囁き合っていますよ」(前出・ウオッチャー)
その声ははるか海を越えて、フランス政府首脳の耳にも届いているようだ。