夏場などは学校に泊まり込みで野球の練習をするのだが、宿泊するのは古くさい宿舎であった。それもそのはずである。その宿舎は太平洋戦争当時の年代物で、兵隊たちが宿舎として使用したものらしい。
ある夜の事、夜間練習を終え、ふらふらになって宿舎に帰り、部員たちがくつろいでいると、奇妙な音が聞こえてきた。
「おい、みんな足音が聞こえないか」
仲間の発言に何名かが頷き、全員で耳をすました。
「ザック ザック ザック ザック」
集団で規則正しい行進である。まるで軍隊の足音、軍靴の響きである。外はさっきまで自分たちが練習していたグランドである。いったい、今だれがあそこで行進しているんだ。あまりの恐怖に誰もグランドに見に行く事はできなかった。
そういう奇妙な事が何度も続き、営業マンと仲間は思いきって先生たちに相談してみた。すると先生の答えは意外なものであった。
「ここは昔、軍隊の駐留地だったからね。いろいろ出るんだよ。先生の中にも”兵隊の幽霊”に出くわした人もいるんだ」
営業マンの現役時代は軍靴が鳴り止む事はなかった。最近、母校を訪れたところその古い宿舎はなかった。時代の波に戦争の残像は消えたのであろうか。