井の頭公園がある一帯は、江戸時代には徳川将軍がたびたび鷹狩りに訪れた緑豊かな土地だった。道路整備や住宅化などが進んだ現在も、街並みには武蔵野台地と呼ばれたかつての面影が残されている。
その井の頭公園の中でも、大きな面積を占めるのが井の頭池だ。ボートでこぎ出すことができ、桜の名所として「日本さくら名所100選」にも選定されている。渡り鳥の季節には、湖面に降り立った鳥たちで、ひときわにぎわいを見せる。また、“井の頭公園でデートをしたカップルは必ず別れる”という都市伝説が都内の女子高校生を中心にささやかれているそうだが、別れる理由は、井の頭池にまつられている弁天様が嫉妬するからだとか。
ところで、その井の頭池に、かつて、竜がいたという伝説をご存じだろうか?
井の頭池から源を発する神田川が都内を横断しているが、神田川のほとりに龍光寺(東京・杉並区)という寺院がある。開創は承安2年(1173)とされ、本尊の薬師如来立像は平安時代末期に造立されたものという。
その「龍光」という寺号が、竜の存在を現在に伝えている。かつて井の頭池には巨大な竜が住んでいた。あるとき、その竜が神田川を下り、龍光寺がある付近で雷鳴をとどろかせた。光を放ちながら昇天したそうだ。
また、龍光寺の近くには、雨水をつかさどる竜神がまつられている貴船神社がある。貴船神社境内には“御手洗の小池”があり、かつてはいかなる日照りにも、かれたことがなかったそうだ。村人の雨乞い・止雨の儀式を執り行う場所でもあった。
貴船神社の湧き水は、現在は、神田川の改修工事や周辺の住宅化の影響でかれてしまっている。しかし、信仰は途絶えることなく今日にいたっている。(竹内みちまろ)