「HISの悪化は、昨年11月末に発表された'16年10月期('15年11月1日〜'16年10月31日)の連結業績予想に現れました。売上高は前年比2.6%減の5237億500万円、営業利益は28.5%減の142億7400万円、経常利益は61.9%減の86億4800万円。純利益は何と、対前年比97.5%減の2億6700万円となったのです」(経済記者)
こうした厳しい状況となった理由を、同社経営陣は三つ挙げている。まず、欧州でのテロ事件や九州地方などでの大地震などの影響。二つめは為替差損。そして三つめに、連結子会社の中国上海と長崎を結ぶクルーズ船の運航中止による特別損失35億4100万円の計上だ。
「しかし、来年10月期の連結業績では、売上高で10.7%増の5800億円、営業利益で40.1%増の200億円、経常利益は165.9%増の230億円、当期純利益はなんと4394.4%増の120億円を予想し、過去最高を見込むという。その理由として、同社の平林朗副会長は会見で、来期は特別損失もないため一昨年の水準に戻ると説明。また、ヨーロッパのテロで旅行を控えていたシニア層が来年は動く見通しと、あくまで強気の姿勢だったのです」(旅行業界関係者)
一方のJTBは、'15年度(2015年4月〜2016年3月期)のグループ連結決算で、売上高が前年比1.5%増の1兆3437億円と過去最高を記録。理由は、北陸新幹線開業やシルバーウイーク、好調な企業業績を受けたMICE(研修、国際会議)の増加、さらに訪日外国人観光客の増加にあるという。
「ただし、これらJTBの業績アップの環境はHISも同じ。それにもかかわらず明暗が分かれたのは、海外旅行に力を入れ続けたHISと、国内旅行でも従来の旅より一歩先を行く企画を提案したJTBの差がはっきり出たからです」(旅行コンサルタント関係者)
この関係者によれば、JTBは旅行売上高のうち、海外旅行は4804億1400万円で、対前年比9%落ちている。しかし、国内旅行は5%増6046億円、さらに海外からの訪日旅行などの国際旅行は24.2%増の1224億円で、24%も増加している。
「JTBといえども、海外旅行では落ち込んでいる。しかし一方で、インバウンドで大幅に伸ばした上に、国内旅行客向けに地域活性化に取り組んできたDMCとしての戦略が大きな成果を上げたのです」(同)
DMCはDestination Management Companyの略で、単に旅行での宿泊と交通網、観光スポットを紹介するだけでは客を呼べないとするJTBが掲げる事業モデルだ。例えば、北海道の酒蔵と提携したスタンプラリーの『パ酒ポート』。酒蔵を訪問すると特典やプレゼントが付き、地域の発展にもつながるといったサービスを各地で行っている。
ともあれ来期の逆襲を狙うHISは、昨年の熊本地震の影響で客足がマイナス6.9%で289万人に落ちた、子会社で稼ぎ頭の『ハウステンボス』(HTB=長崎県)でも、341万人への増加見込みで業績回復を狙う。
「HTB自身が新アトラクション王国を作る。さらに免税店などを備えたショッピングモールの新設置を加え、HTBから約6キロの大村湾で無人島を購入し、アトラクション施設をオープンさせる計画もあります。そのため集客と話題性に自信を伺わせているのです」(経営コンサルタント)
だが、シンクタンク関係者からはこんな懸念の声も聞かれる。
「欧州のテロ脅威は、先頃のドイツでのトラックテロでも分かるように、少しも衰えていないのが現状。HTBは中国やアジアからの入場者にも期待をしているというが、世界中から観光客を集めるUSJも、今年早々に新アトラクションを始める。さらにHISには、ネット旅行会社の台頭も立ちはだかる。JTBと比較しても、HISはネット対応への遅れが指摘されており、経営陣は早急に新システムを立ち上げるとしているが、果たしてどこまで対応できるのか」(前出・旅行業界関係者)
HISは'16年秋、一度陣頭指揮から外れた澤田秀雄氏を再びCEOに据えるなど経営のテコ入れに躍起で、「澤田氏は最終兵器として、HTBへのカジノ導入を狙って奔走している」(周辺関係者)という話も聞こえてくる。
果たして、本業の旅行業の回復とともに業績も増収増益へ結び付けられるか。