その進化は、人知をしのぐ速さで進んでいた。
「乗っていて気持ち悪くなるぐらい、強かったですよ」。アルティマトゥーレが初重賞Vを達成した前走のセントウルSを、松岡騎手はそう振り返った。
16頭立ての15番枠。芝がびっしり生えそろった開幕週の阪神では、大きな不利だった。
「しかも前に行く馬でしょ。好位を取るまで脚を使う分、外枠はやっぱり厳しいと思っていました。ところが、あのメンバーに入っても二の脚が抜群に速い。楽に3番手まで行けたんです」
さらに松岡を驚かせたのは、直線に入ってからだったという。「あれだけのペースで先行していたのに、まだ余力が残っていた」。テン乗りだった3走前のテレビユー福島賞、前々走のアイビスSDでは伝わらなかった感触、力強さ。スリープレスナイトを2馬身半退ける完勝だった。
「急にターボを搭載したみたい。こちらが思っている以上に強くなってるんですね」と笑みを浮かべた。
この中間、調整はソフトに徹している。速い時計は最終追い切り1本のみ。ふだんは角馬場調整を中心にリラックスに努めてきた。そのかいあって、馬体はふっくら。筋肉のメリハリもスプリンターのそれだ。そして何より落ち着きがある。
「カイバ食い、体重ともすぐに戻った。いつもより張りもある。たくましくなったよ」と奥平調教師はうなずいた。
栗東の森厩舎から転厩して1年足らず。体質が弱く、休養を繰り返していたトゥーレとともに試行錯誤を続け、今のスタイルができあがった。
「牧場のケアも素晴らしい。思い入れのある血統だしね」。祖母はスキーパラダイス。社台ファームの総帥・吉田照哉氏の勝負服を着た武豊騎手が、日本人として初めて海外GI、仏ムーランドロンシャン賞に勝利した。半弟には皐月賞馬キャプテントゥーレもいる。
体質がしっかりすればこれぐらいの活躍は当たり前の名血。エスコートする松岡はこう締めくくった。「今回は定量戦で条件は厳しくなる。それでも、今の充実ぶりがあれば楽しみはありますよ」
代々受け継いだ類まれなスピードと瞬発力。中山のターフに迷いなくぶつけるだけだ。