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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第338回 消費税の廃止を求める(後編)

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提供:週刊実話

 政府の「直間比率の是正」方針を受け、所得税や法人税の税額は中長期的に落ちている。とはいえ、所得税や法人税が、景気の影響で激しく変動しているのも確かだ。税金に「ビルトインスタビライザー(埋め込まれた安定化装置)」の機能がある以上、それでいいのである。

 ところが、消費税収は恐ろしいほどに安定的だ。何しろ、リーマンショックが起きてすら、税額は「横ばい」なのである。消費税は、増税すると数年かけて税収が増え、その後は「何が起きようとも」横ばいで推移するという特徴を持つ。

 財務省に言わせれば「安定財源、それがいい」という話なのだろうが、リーマンショックのような大不況期ですら、容赦なく国民から徴収される税金が消費税なのである。消費税は、不況期の負け組からも所得の一部を奪い取る、残酷な税金だ。

 また、消費税はご存知の通り、低所得者に厳しく、高所得者に甘いという逆累進性を持つ。加えて、不況期の負け組にも冷たい。消費税が格差拡大型税制であることは疑いないが、今回(2019年10月増税)の場合、消費税増税による需要縮小対策までもが、格差拡大を志向しているわけだから恐れ入る。

 まずは、増税後の軽減税率ならぬ「(8%への)据え置き税率」の商品区分が複雑怪奇で、トラブルが多発する可能性が濃厚だ。食品は8%に据え置き、但し外食の場合は10%、新聞は配達分が8%で、キオスクやコンビニで買うと10%。コンビニでおにぎりを買い、持ち帰るならば8%、イートインで食べる場合は10%。トラブルなしで運用できると思う方に無理がある。

 加えて、最悪なのがキャッシュレス決済によるポイント還元である。ポイント還元の仕組みは、大手スーパーや百貨店を除く小売店が、キャッシュレス決済をした際に金額の2%(コンビニなどフランチャイズチェーンの場合)、もしくは5%(その他の小売店)のポイントを還元し、「政府が負担する」というものだ(要は、値引きし、値引き分を政府がもつわけだ)。

 ポイント還元制度は、来年6月までの限定措置である。東京五輪が開催される頃には、政府のポイント還元制度はなくなっている。ポイント還元による対策は6月打ち切りだが、増税による実質的な消費の落ち込みは延々と続く。

 ポイント還元に参加する企業は、クレジットカード会社などのキャッシュレス事業者と契約し、仕組みを整え、経産省の審査を受ける必要がある。逆にいうと、キャッシュレス決済を導入する余裕がない「弱小」の小売店は、ポイント還元の対象にならない。

 しかも、ポイント還元の小売店が、インターネット上の地図で検索できるようになってしまう。消費者側は、インターネットで「このお店はキャッシュレス対応している」と確認した上で、選別的に買い物ができる。キャッシュレス導入ができなかった弱小小売店は、インターネットに掲載されず、選択肢から漏れる。

 経済産業省によると、キャッシュレスによるポイント還元を10月1日から実施できる小売店は、全国約200万店舗のうち、60万店舗ほどとのことである。140万店舗はポイント還元の対象外で、普通に10%増税での販売になる。

 実質賃金の低迷が続き、相変わらず「安い製品」ばかりを追い求める日本の消費者が、果たして税率が高い弱小小売店で買い物をしてくれるだろうか。

 明らかに、「キャッシュレス決済の準備ができる強い小売店に優しく、準備不可能な弱小の小売店には冷たい」という、格差拡大型の制度になっているわけだ。

 加えて、今回のポイント還元は消費者側に対しても、格差拡大型なのだ。

 クレジットカードやキャッシュレスの支払い手段を持つ「相対的な強者」は、例えば、1万円の品に消費税10%がのり、1万1000円。そこから5%の値引きになるため、1万450円の支払いになる。550円分のポイント還元で、事実上の「消費税減税」になるのである(但し、’20年6月までの限定だが)。

 ところが、キャッシュレス決済の手段を持てない「相対的な弱者」は、普通に1万1000円の支払いになる。
 消費者についてまで、相対的な強者に減税し、弱者には普通に増税する。見事なまでの「逆累進課税」の需要縮小対策なのだ。

 さらに、前述の通り、キャッシュレス対応のポイント還元は、’20年6月末までで、その時点で「再増税」。今回の政府の「対策」を受け、キャッシュレス対応の投資を行った小売店は、未来永劫、プラットフォーマーに手数料を「チャリン、チャリン」と吸い上げられる羽目になるわけだ。

 結局のところ、クレジットカード会社や電子マネーなどのプラットフォーマーが、日本でキャッシュレスが普及しない(そもそも需要がないためだ)ことに業を煮やし、消費税増税というショックを「これ幸い」とばかりに利用。将来的な「チャリンチャリンビジネス」のために経産省に働きかけたのではないだろうか。いわゆる、ショック・ドクトリンである。

 期間限定であるため、税率が下がることにうるさい財務省も、「期間限定であるため、念願の消費税の増税を達成できるならば」と、事実上の減税を受け入れ、経産省も、「自分たちの“顧客”であるプラットフォーマーやIT企業のビジネス拡大に貢献できるならば」と、政治的な妥協が図られたのであろう。

 税金そのものに加え、増税対策までもが「格差拡大型」の消費税。間違いなく、日本史上「最悪」の税制である消費税には、「廃止」以外の政治的な選択肢がない。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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