国際大会で使用される大リーグのボールはR社製で一本化されている。日本の場合、メーカー1社となれば、最大手のM社になるだろう。北京五輪の時には、M社が大リーグのボールに近いものを作り、使用している。が、メーカー1社による統一ボールがこれまで実現していないのは、「1社に絞ったら、M社以外のメーカーが倒産する恐れがある。大リーグとは事情が違う」という反対論が強かったからだ。
加藤コミッショナーの強い要望で、とりあえず、「来シーズンからの一軍の使用球をメーカー1社に統一するかどうかを討議する」という結論になったのだが、球界内部では依然として根強い反対論がある。
「国際大会、国際大会というが、五輪から野球が消えて、今行われているのはWBCだけじゃないか。次の大会は2013年だろう。そもそもペナントレースでも大リーグのボールと同じようなものをというが、大リーグのボールは粗悪品が多い」。大リーグに精通している球界関係者は、こう声を大にしてさらに続ける。
「大リーグのボールはR社製というが、実際には人件費の安いコスタリカで作られており、ボール1個、1個のばらつきがひどく、統一されていない。ボールは日本製の方が品質は数段上だ。しかも、何もメーカー1社に絞らなくても、同じようなボールを作れる能力がある。日本が大リーグのボールに近づけるのではなく、日本の優秀なボールを大リーグに使わせればいいんだ」と。
野球は米国の国技で、日本の野球はマイナーリーグ級と見下ろしている大リーグ側が日本のボールを使うことなど、天地がひっくり返ってもないだろうが、確かに何でも大リーグに追従する必要はない。
加藤コミッショナーは長年、駐米大使を務めており、対米追従主義が鼻につくのも事実だ。「日本のスポーツメーカーの実態を知らない加藤コミッショナーの独断、独走を許すな」という声も、球界内では聞こえてくる。
様々な論議があるボール問題の落としどころは、現場を熟知している、コミッショナー特別顧問の王貞治氏(ソフトバンク球団会長)の正論にあるのかもしれない。「今の日本のボールは飛びすぎる。こすってもスタンドに入ってしまう。あれでは投手が育たないし、野球にならない。一回り大きく、重くて飛ばない大リーグのボールを日本でも使えばいい。そうすれば、国際大会でも戸惑うことはなくなるわけだしね」。
国際大会のためにボールを変えるのではなく、日本の野球を正常化するために、飛ぶボールをやめ、大リーグ仕様の飛ばないボールにする。そうすれば、国際大会での戸惑いも消える。王氏の理論の方が加藤コミッショナーよりも説得力がある。そして、付け加えれば、商売のために飛ぶボールを作っていたのはM社なのだから、独占させる必要はない。他のメーカーにも大リーグサイズのボールを作らせ、しかも日本的な品質の良さはそのまま生かす。これで、一件落着するだろう。