優勝に準ずる成績を挙げた鶴竜について、北の湖理事長(元横綱)、横綱審議委員会ともに、来場所(春場所=3月9日初日=大阪)、「13勝以上の優勝」を条件に、綱獲り場所となることを明言した。
ところが、日本相撲協会内部でも横審でも、鶴竜の綱獲りに関しては、全く気運が盛り上がっていないのだ。
それは、なぜか? 鶴竜は12年夏場所(5月=両国)で大関に昇進したが、昨年九州場所(11月=福岡)までの在位10場所で、大関の責任といえる2ケタ勝利をマークしたのは、わずか3場所。8勝7敗と、辛うじて勝ち越した場所が3回もある。全然大関の責任を果たせない鶴竜は、「大関に上げるべきではなかった」と批判される始末だった。これまで、成績を残せず、信頼がまるでない鶴竜を、1場所好成績を挙げただけで、綱獲りに向かわせるのは、協会、横審の本意ではないのだ。
しかし、どうしても日本人横綱がほしい協会は、昨年夏場所(5月=両国)、昨年九州場所で13勝した稀勢の里(27=田子ノ浦)を、優勝していないにもかかわらず、「優勝に準ずる成績」と認定して、綱獲りチャンスを与えてしまった。稀勢の里はいずれもズッコケたが、さすがに、「鶴竜にはチャンスを与えない」というわけにもいかなくなったのだ。
横綱昇進への内規は、「2場所連続優勝、もしくはそれに準ずる成績」と定義されており、平成以降、「2場所連続優勝」以外で昇進させた例はない。だが、なんとか稀勢の里を横綱に上げたいばかりに、昇進へのハードルを下げてしまったため、鶴竜にチャンスが転がり込んできた。
来場所、鶴竜が13勝以上の優勝を果たして、横綱に昇進させたら、モンゴル人横綱3人という、協会にとっては望ましくない状況になってしまう。3横綱が存在すると、安易に4人目の横綱をつくる必要はなくなる。そうなると、稀勢の里が3度目の綱獲りを目指す上で、そのハードルが高くなる可能性がある。
稀勢の里を横綱に上げたい協会にとって、鶴竜の降ってわいた綱獲りは、「失敗してほしい」というのがホンネかも。
(落合一郎)