市場関係者はひとまずこう辛口の感想を述べた。先ごろ開通した北海道新幹線のことである。
【新青森-新函館北斗】の乗車率についてJR北海道(島田修社長)は、開業初日が61%、2日目は37%だったことを明らかにした。初日の3月26日が1万4200人の利用、在来線前年比で見れば329%という驚異の数字だが、開業の具体的な効果は「まだまだこれから」(関係者)だという。
「無事、開業することができてほっとしている。東北との交流の拡大や外国人観光客の取り込みなど、営業を本格化させたい」
島田社長は開業日から週が明けた3月28日の記者会見でこう語った。今回の北海道新幹線開通で、昨年3月に開業した北陸新幹線【東京-金沢】同様、果たして航空機との熾烈な利用客争奪戦は起こるのだろうか。北陸開業では航空業界は大ダメージを受けた。交通評論家が解説する。
「羽田からの北陸便の飛行時間は約1時間ですが、空港から金沢まで30分、さらに待ち時間を入れると時間的には2時間半で新幹線と互角。一方の新幹線は、ほぼ東京駅からドア・ツー・ドア。早割を利用すれば飛行機の方が安いですが、新幹線も片道指定席で1万4120円と価格設定もまずまずで、観光客ばかりかビジネスマンも流れ込みました。全日空はついに悲鳴を上げ、3月27日から1日6往復だった羽田-小松、羽田-富山便を1日4往復に減便しましたからね」
当然の試算だが、新幹線の開業により北海道への旅行者数も増えるとみられている。
「旅行予約は4月から6月までで対前年比110%です」(JTB広報)
日本政策投資銀行北海道支店('14年レポート)の試算でも、新幹線開業経済波及効果は136億円。特に1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)の新幹線利用客は観光で144.2%増、ビジネスで159.4%増の約7万2000人としている。さらに、北海道に近く従来より片道50分以上も時間が短縮される仙台からは、観光客を約236.7%の大幅増と見込んでいる。
しかし、こうした試算にもかかわらず航空各社には、今のところ北陸新幹線開業ほどの“おののき”は見られない。東京-函館間1日4往復を飛ばすエア・ドゥの企画担当者は言う。
「これまで通りの運航で、特に新幹線開業での変更は予定していません。料金も春休み、旧盆などの混雑期が3万1590円、通常期が2万7390円。早割制度を使えば1万円を切るものもあります」
北海道新幹線【東京-新函館北斗】片道指定席料金は2万2690円。一方、JAL、ANAの【羽田-函館】普通運賃はともに3万7890円だが、各種割引運賃を使えば新幹線と大差はない。一方、時間は新幹線が最速で4時間2分だが、市内へは他のアクセス時間も含めると東京から函館は約4時間半の計算になる。新幹線には「4時間の壁」といわれる航空機との境界線がある。JR各社の調べでは「4時間を超える距離の場所には航空機利用が増え、4時間を切ると鉄道」との傾向が明確に表れている。
国土交通省の統計によれば東京-広島は新幹線で3時間47分。新幹線利用が約6割、航空機が4割。同統計で東京-福岡は新幹線で4時間50分。新幹線利用者は8%に激減、92%が飛行機利用だという。
北海道新幹線に4時間の壁があるのに対し【羽田-函館】は片道1時間20分。飛行場から市内へのアクセスも短く、東京駅から羽田までの移動時間や待ち時間を含めても3時間台と新幹線より1時間ほど短い。つまり運賃も時間も航空機が勝っている。北海道新幹線新函館開業対策推進機構の永澤大樹事務局長は言う。
「開業直後、おかげさまで観光客は増えています。しかし当面、50万人増、今年は530万人を目標にしているわれわれにすれば、まだまだリクエストはあります。これまでも4時間の壁を切るようにしてほしい、運賃をもう少し安くできないかなどを要望してきました」
当初案にあった運賃1万円台ならば、航空機は相当の煽りを受けていただろう。北海道新幹線は最高時速260キロメートルで走れる。この速さなら東京-新函館北斗間は3時間39分で4時間の壁を切れた。しかし、これを阻んだのは資金面で、青函トンネル内が日本初の新幹線と貨物の共用線となり、時速140キロメートルに落とす必要がでた。貨物列車が最大51本通り、新幹線が260キロメートルですれ違うと、貨物の荷崩れや貨物車のへこみなどの事故が起きやすいのだ。
「一大消費地である札幌が未開通のままでは、数字は上がらない。延伸完了は2031年とずいぶん先の話ですし、それに東京-札幌が5時間では…」(関係者)
北海道は広い。