「最大のテーマは藤浪晋太郎の復活です。山本氏がチームに合流した11月1日、藤浪の方から話し掛けてきました。藤浪も山本氏に聞いてみたい話がいろいろとあったのでしょう」(チーム関係者)
同関係者によれば、矢野監督から電話が寄せられたのは、クライマックスシリーズ終了後とのこと。山本氏もテレビでのレギュラー番組を持っており、他にも予定が入っていたはずだ。
矢野監督の就任以来、中日OBの関与も指摘されていたが、山本氏の臨時コーチにおいては「こんな急な要請ができる人は、ほかにいなかった」と解釈すべきだろう。
「シーズン終了後、一軍の福原、金村、二軍の香田、高橋の投手担当コーチと矢野監督は話をしました。詳細は分かりませんが、4投手コーチと話し合った結果、『藤浪の再生はお手上げ』ということになり、『だったら、臨時コーチを頼むしかない』と…」(前出・同)
練習の流れについては投手コーチが指示をしているが、藤浪を含め、秋季キャンプに選ばれた17人の投手への技術指導を行っているのは、山本氏のみ。「他コーチは口出ししない」と、矢野監督が“厳命”したという。
「臨時コーチはその名の通り、短い期間しか担当しません。勝敗に責任を持つ通常コーチとは立場が違うので気楽なもの」
そんな風に語るプロ野球解説者、取材記者もいたが、こんな光景を目撃した。練習終了後、矢野監督たちはスタッフルームに集まり、情報交換や選手のコンディションなどを確認する。よって、「選手たちは先に引き上げて食事」という流れになるのだが、阪神投手陣は山本氏がホテルに帰ってくるのを待っていた。そして、「ご飯、行きましょう。連れてってください」と言うのだ。
一般論として、監督、コーチは選手と食事に行かない。一線を画すためだ。臨時コーチだからこその光景だが、山本氏がキャンプ地・高知県安芸市入りして2日目から、そんな風に溶け込んでいた。
「山本氏は臨時コーチを頼まれると、すぐに阪神戦のVTRを集め、各投手の持ち球をチェックしていました。急な要請とはいえ、しっかりと準備してくれて」(前出・同)
山本氏は50歳まで現役を続けたレジェンドだ。若いトラ投手陣に「聞いてみたい話」があったとしても当然だろう。しかし、山本氏は食事を単なる歓談の場にはしなかった。
「山本氏は、いずれは指導者になりたいと思って、いろいろと準備をしていたのでは。技術的な指導は分かりやすいのはもちろんですが、自身の成功体験ではなく、失敗談を選手に聞かせていました。こんな風に考えていたからダメだったとか」(球界関係者)
短期間の臨時コーチの教えを習得できるかどうかは、選手次第だ。ある意味でトラ投手陣は矢野監督に試されているのかもしれない。しかし、トラ投手陣が成績を上げ、藤浪が復活したら、もう一度、こう言われるだろう。「山本氏のおかげ」と。
(スポーツライター・飯山満)