トップ選手や指導力を見いだされた者なら、監督、コーチとして、指導者の道が開かれる。プロ野球選手にとって、引退後の仕事としては最も魅力的な仕事は、やはりプロの指導者だ。ネームバリューにもよるが、監督なら5000万〜1億円程度、コーチでも1000万〜3000万円程度の年俸が保障される。ただ、監督やコーチはいつ契約を打ち切られるか分からず、安定した仕事とはいえない。
ユニフォームを着ることができない者は解説者、評論家として、テレビ、ラジオ、スポーツ新聞等で活躍するのが一般的。だが、解説者を取り巻く環境は大きく悪化している。最大の理由はプロ野球中継が地上波から撤退せざるを得なくなった点と、不景気によるスポンサー収入減により、ギャラ相場が大きく下落した点だ。
視聴率低迷が原因となり、この2〜3年で地上波でのプロ野球中継(主に巨人戦)は激減し、BS、CSにスライドした。当然のことながら、地上波に比べると、BSやCSは予算が少ないため、解説者のギャラも地上波に比べれば、大きく落ちる。
バブル期、現役時代にスター選手だった者は、各テレビ局と高額な報酬で年間契約を結んでいたため、コーチ並みの収入を得られていた。だが、年間契約はなくなり、スポット出演が慣例となった上、ギャラ相場も大きく下がっているという。
メディア事情に詳しいスポーツジャーナリストのA氏は、「地上波での解説者のギャラは、平均的なケースで50万円程度だったものが、10万〜20万円程度にまで下落しているようです。それがCSとなると、相場は5万円程度にまで下がります。ラジオはもともと、テレビより安いですが、これも同様です」と語る。
巨人戦を中継する日本テレビ系列のG+を除けば、他のCS局ではスター選手より中堅クラスだった者が解説者を務めることが多い。それは、予算の関係だ。早い話、CSではスター選手はギャラが高くて呼べないのである。
スポーツ新聞はというと、これも近年、ネットの普及で新聞の売り上げはダウンし、専属評論家に支払う原稿料相場は大きく落ちているという。
それでも、スター選手だった者は、なんらかの仕事があるのでまだいい。中堅クラスや2軍暮らしが長かった者の引退後は深刻だ。打撃投手、ブルペン捕手、用具係、スコアラー、スカウト、球団職員といった形で、球団運営に関われればいいが、それができなければ、野球以外の第2の人生を考えなければならない。自営業をするにしろ、会社勤めをするにしても、学生時代から野球一筋でやってきた者にとって、一般社会の水は厳しい。
引退しても、どんな形でもいいから野球に携わる仕事がしたいというのがホンネだろう。ただ、これまで、そういった仕事がなかったのが現実だった。その意味で、今回、日本学生野球協会が高校野球の指導者になるための規定を大幅に緩和する案を、NPB(日本野球機構)に提示した意義は大きい。
これまで、「中学、高校で2年の教諭歴」がなければ、高校野球の指導者になれなかったのが、NPB、日本学生野球協会の研修を受けて、学生野球資格の回復ができるようになれば、多くの元プロ野球選手が、その職に就くことができるようになる。
むろん、現役でバリバリやっていた頃の高給は保障されない。しかし、選手を辞めても、高校野球指導者という新たな道ができたことで、多くの元プロ野球選手を救済できる。数年後には高校野球の監督の大多数が、元プロ野球選手だという時代が来るかもしれない。
(落合一郎)