「投手陣の中で群を抜く力を持っていることは、(五輪代表)チームの誰もが認めている」
星野監督は、そう高く評価。ダルビッシュがキューバ戦(8月13日)に先発するのは、すでに公然の事実にも等しい。
期待されていることは、本人も分かっている。シーズン中、常にフォア・ザ・チームを口にしてきたが、今は五輪にスイッチを切り替えている。
「状態がいいし、このコンディションは五輪まで絶対、持続できる。自分の力を出せれば大丈夫」
プレッシャーはあるはずなのに、みじんも感じさせない。21歳で日本ハムの大黒柱を自認していることを例に出すまでもなく、並の精神力の持ち主ではない。
しかし、昨秋までは五輪への執着はなかった。「目標でも何でもなかった」と述懐するほどだが、転機は昨年10月の日本国籍取得。12月の北京出場がかかったアジア選手権で、台湾に先制点を許したが、打線が奮起して逆転。ダルビッシュは勝利投手になった。
「周りはみんな、プロ野球を代表する一流選手ばかり。その人たちが目の色を変えて、逆転してくれた」
ダルビッシュが日本人であることを、強く意識したのはこの時だった。
31日のオールスター戦でセ・リーグの強打者を相手に速球1本で勝負。金本に本塁打は打たれはしたが、その存在感を存分にアピールした。北京でも快投を演じるようなら浮上してくるのが、大リーグ入りだ。
セ・リーグ有力球団のスカウトが解説する。
「もし日ハムが放出するとなれば、セの6球団すべてが手を挙げるのは間違いない。ま、ありえない話ですけど、メジャーとなれば話は違ってくる。(日ハムの)球団サイドには、話は行っているはず。今シーズンは(パの)3連覇がかかっているから断って当然ですが、来季は分からない」
150キロ超の速球に多彩な変化球を投げ分ける投球術は、メジャーで通用するのは間違いない。
「まだ21歳と若く、日本国籍を取っているといっても、お父さんが日本に来ているように海外に行くことに抵抗はないはず。後は、私生活を含めた条件をクリアできるかどうかでしょう」(同)
ポスティングによる移籍となるが、契約金や年俸はどのくらいになるのか。メジャーに詳しいフリージャーナリストは、松坂と互角かそれ以上もありうると見ている。
「日本人選手は商売になるばかりではなく、戦力として計算できることも分かっています。それも、投手なら文句なし。ダルビッシュが北京で活躍するようなら、一気にヒートアップしておかしくない。日ハムとダルビッシュに関係なく、盛り上がるのではないですか」
松坂は年俸だけでも6年約60億円。ダルビッシュはどのくらいになるのか。
〈アテネ五輪までの日本代表〉
野球が五輪の正式競技に採用されたのは、1992年のバルセロナ五輪。それ以来、日本は前回のアテネまで4大会、優勝していない。
84年ロサンゼルスは金、88年ソウルで銀メダルを取っているが、いずれも公開競技だった。2012年のロンドンでは実施されないため、北京で表彰台の中央に立つことはまさに悲願だ。
バルセロナの3位、アトランタの2位当時は、プロ選手の参加は認められていなかった。2000年シドニー五輪からオープン化、プロも選手にも門戸が開かれた。松坂大輔、中村紀洋らが代表入りした。
しかし、セ・リーグが消極的でプロは、わずか8人。3位決定戦で韓国に敗れ、初めてメダルを逃している。
長嶋ジャパンのアテネは1球団2人、全員プロで固めた。しかし、大会前に長嶋監督が病気で倒れ参加できず、結果も無念の銅メダルだった。