売れっ子キャバ嬢だけど、彼氏は意外にもなし。とはいえ、指名客の中に気になる人は数名いる。30歳独身、某一流企業勤務の修兵。もし彼にするなら、こんな感じがいいな、と思えた男性だった。
ある日の夕方5時、出勤時間。つかさが店に入ろうとしていた時、貞子かと思うほど黒い長髪がうっとおしい地味な女性が「あの…」と話しかけてきた。
どうもこの貞子は修兵の会社の受付嬢らしく(多分嘘だと思えるほど野暮ったかった)、一方的に修兵に心を寄せてるらしいが、つかさと付き合ってると思い込み、わたしという人間がいるのでどうか手を引いていただけないかという直談判に現れたのだった。
あまりの自分勝手加減に、つかさも乾いた笑いしか出ず、「とりあえずあなたの誤解だし、そんなに気になるならご本人に問いただしては?」と、軽くあしらった。せっかく気に入っていたお客さんだけど、こんなのが出てきて面倒だから、それ以上には考えられなくなった。
数日後。某零細企業社長(60歳近く)のお客様と同伴で、都内の寿司屋に一緒に入り、カウンター席に座ろうとした瞬間、中年女性の金切り声が背中にひびいた。つかさのことを浮気相手だと思ったらしく、ハンドバッグで罵声を浴びせながら殴りつける。
どうにかすぐに誤解は解けたものの、それでも若い女相手に遊んでいたというのが許せないらしく、まだ疑いが晴れたわけじゃないのよとばかりに睨みつけられた。
更に一週間後、某IT関連経営の社長と同伴の待ち合わせをしていたら、推定で妊娠8か月くらいの妊婦がつかさのところに来るなり、「わたしの彼を取らないで!! 彼はこの子の父親なのよ!!」と泣きつく始末。聞くと、お互い結婚するつもりで子供も明日にでも欲しいくらいの勢いで愛し合ってたのに、突然連絡が取れなくなり、人づてにつかさのことを聞き、新しい女に乗り換えたというのを突き止めてきたらしい。
やはり大きな誤解なので、自分は指名されてるキャバ嬢であって、彼の新しい女ではないと説明しても聞き入れてもらえず、しまいには電車のホームから飛び降りるという始末。道行く人たちがこちらに注目していてこっぱずかしい。仕方なく社長に電話すると、なぜか電話に小学生くらいの女の子が出る。
連絡先間違えた? と思って一言謝って切ろうとしたら、向こう側でごちゃごちゃしたやりとりが聞こえてきて、女の子に代わり社長が出た。
「ごめん、親戚の子預かっててさ。待ち合わせちょっと遅れるから…」
つかさの携帯をひったくって妊婦が、ここであったが百年目とばかりに、社長を糾弾していたが、つかさは事態を大体察した。なるほど、この妊婦さんは騙されたのか、それとも逆にお金目当てなのか。
どっちにしても、最初にわたしを責めるなんて、相手が違うでしょうに。そして気がつくと、この一か月でわたしどれだけ色んな人に誤解されてるの??
キャバ嬢の宿命…という言葉では片付けられない。
文・二ノ宮さな…OL、キャバクラ嬢を経てライターに。広報誌からBL同人誌など幅広いジャンルを手がける。風水、タロット、ダウジングのプロフェッショナルでもある。ツイッターは@llsanachanll