「タバコがとにかく苦手で。最初はタバコの臭いくらい我慢できると思っていたんです。でもいざ働いてみると、店内が煙で溢れかえるような日は、気分が悪くなってしまって…」
蘭子は高収入を目当てにキャバクラで働きはじめた。整った顔立ちに、恵まれたボディ、酒にも強く、頭の回転も早かったことから、瞬く間に彼女への指名は増えていった。だがタバコへの嫌悪感は消えることがなかったという。
「お客さんがタバコを咥えたら、すぐに火を付けなきゃいけないんですけど、正直嫌でしたね。もちろん笑顔でいましたけど、煙を吐かれた瞬間はいつもバレないよう、息を止めていました」
彼女にとって煙を吸い込む、副流煙からの健康被害も心配であったが、それよりも臭いに体が拒否反応を起こし、酷い時にはトイレで嘔吐したという。
「店長に相談したら、タバコの臭いくらい我慢できなきゃキャバ嬢は務まらないと言われました。確かにそうですよね。それで思い切ってキャバクラで働くことを辞めて、チャットレディを始めたんです」
蘭子は、臭いが直接自分の臭覚へと介入しない接客の方法を考えた結果、パソコンの画面上で客と繋がるチャットレディという仕事を選んだ。確かに自室から映像を配信するため不快な臭いや直接的なセクハラはない。だがそれだけにライブカメラの向こうの客は過度な下ネタを求めてくる傾向があるそうだ。
「キャバクラの場合は大人しくお酒を飲んでいるお客さんも多かったですが、チャットレディの場合は積極的な人が多いですね。でもアダルトな要求には答えずに、なんとかがんばって受け流しています」
男性客は1分につき約200円と、決して安いとはいえない値段を支払わなければならないため、キャバクラの客よりも欲望に従順なのかもしれない。
店内でのわずらわしい人間関係もなくなり、精神的に楽になったという蘭子は、しばらくこのチャットレディの仕事を続けていくという。
(文・佐々木栄蔵)