その後、店はリニューアルし、内装もコンセプトも一新している。そこで場内指名したのがS嬢(22)。身長は160センチ台で、身にまとったドレスからはみ出すほどの巨乳だった。
「巨乳」だけで気に入ったわけではない。その場に合わせたトークもスムーズ。しかも、ムードは癒し系。ただし、いつものように電話番号とメールアドレスを聞いて別れただけだ。
「いま、なにしてる?」
数日後、電話がかかってきた。
最近のキャバ嬢の営業はメールが基本だろう。しかし、S嬢の営業は基本的に電話なのだ。しかも、営業日とは関係なく、電話がある。なにげない日常会話も印象を強くしていた。そんなとき、店を変えるという話があった。
「L」という新規オープンをした店に体験入店をするという。私は、そのS嬢をびっくりさせてあげようと、メールをしながら、その店の場所を聞き出し、「行く」とは言わずにメールをしていた。その店は歌舞伎町の大衆的なキャバクラの値段でありながらも、高級感のある雰囲気を漂わせていた。
「え? なんでここにいるの?来るとは思わなかった」
私はさっそくS嬢を指名した。すると、S嬢はびっくりしたかのような表情だった。
体入日に指名だなんて、店としてはどうなんだろう? とは思いながら、久しぶりの乾杯だ。
そこでの会話で分かったことは、S嬢は中学で不登校になり、中2のころからキャバクラで働いていたのだという。私がこれまで取材してきたキャバ嬢で、気になる子のなかに、中学時代からキャバクラで働いていたケースをよく耳にする。なぜか、そうしたムードを持っている嬢に惹かれることが多い。
当時、S嬢は中央線沿線の店に勤務し、数か月でナンバー1にもなった経験があるという。しかも付いた客にはお金持ちが多く、最近まで、吉野家やファミレスにさえ言ったこともないという。高級レストランに行くときにはリムジンで行くのは慣れっ子だとも。営業がうまいのはそのためか、と頭で理解するとなんとなく醒めていく気がする。
しかし、それを感じてか、「もう、そういうのは飽きたの」と言いながら、S嬢は私をムードで酔わせようとする。肩を寄せ合いながら乾杯をする。初日ということもあり、S嬢を指名するほかの客もいない。そこで、武器にするのはやはり胸だった。
「胸が重くて、肩が凝っちゃった」
カップは「H」。巨乳とは思っていたが、そこまで大きいとはびっくり。胸を寄せながら、あげていくが、
「合うドレスがないの。この身長に、この胸だと、特にだめ」
そう言いながら、肩に目をやる。どうやら、肩を揉んでほしそう。そこで、
「揉んであげようか?」
と聞くと、うれしそう。さりげなくボディタッチをさせてくれるのは、冷静になっていた頭を再び熱くさせるにはよい手段だ。しかも、店員の目を盗んで軽く胸を触らせてくれる。
そして、S嬢はこの夜、なぜか饒舌で、自分の過去のばかり話をする。寂しげな表情を交えながらの会話。嬢のことをかわいく思えてくる。距離を縮めて行くうまさは、分かっていながらもはまってしまう私がいた。そこで、焼酎ボトルを入れて、2人で空けてしまった。
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
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