■最優秀選手賞(MVP)=該当者なし
●候補者(強いてあげるなら):青木宣親(ジャイアンツ、岩隈久志(マリナーズ)、田中将大(ヤンキース)
青木は前半戦だけとってみれば打率3割1分4厘で打撃十傑の5、6位につけていたが、8月中旬以降脳震盪の後遺症に苦しみ、シーズン後半はチームにほとんど貢献できなかった。
逆に岩隈は、シーズン後半は完全に復調し、息切れした大エースのF・ヘルナンデスに代わって先発の柱として機能した。8月中旬にはノーヒットノーランの快挙もあったので、シーズン後半だけとってみればMVPレベルの働きだったと評価できる。
今期も年俸650万ドルに対し960万ドルの働きを見せているので、日本人選手の中では最も投資効率の高い選手でもあった。
ただ第2エースとしてチームを地区優勝に押し上げる原動力になることを期待されながら、4月は大乱調。5月、6月は肩の広背筋を痛めて全休となりマリナーズが予想外の不振にあえぐ元凶にもなっていたので、シーズン全体のMVPとすることはできない。
田中は貢献ポイントであるWARが最も高く(3.1)、1240万ドル分の働きをしている。しかし田中は年俸も2200万ドル(26.4億円)とダントツに高く、ノルマは年間登板数32試合以上、防御率3.00以内、17勝以上あたりに引かれている。今季は登板数がそのノルマの75%(24試合)、防御率、勝ち星もノルマを大きく下回っているので、年俸の半分程度の働きしかしていない。これほど投資効率が悪いとMVPにするわけにはいかない。
■殊勲賞=岩隈久志
「金星」に値する快挙は岩隈が8月18日にオリオールズを相手にやってのけたノーヒットノーランだけだ。これはメジャー屈指の強力打線を相手に達成したものであり、まさに値千金の快挙だったので、殊勲賞は岩隈にすんなり決定だ。
■敢闘賞=村田透(インディアンズ)
●その他、候補者=イチロー(マーリンズ)
敢闘賞に値するのは41歳という高齢にもかかわらず、日本人選手でただ一人フルシーズン稼働したイチローと、30歳で夢のメジャー昇格を果たし3Aの最多勝投手にもなった村田透だ。
この二人を比較した場合、インパクトがあるのは村田だった。
読売巨人軍時代('08〜'10年)、村田は一軍で1勝もできないまま戦力外になり、渡米してマイナーの下の方からキャリアを再スタートさせた。しかし4年目までは左打者を抑える武器がないため3Aで3年連続防御率が5点台。2Aでも一度も3点台の防御率を記録したことがなかった。しかしカッターの使い方をマスターして臨んだ今シーズンは、苦手にしていた左打者を封じられるようになり防御率2点台の投手に急成長。30歳でのメジャー昇格は、よほどの精神力がなければできるものではない。マイナーリーグは6つのレベルに分かれており、序ノ口レベルからスタートしてメジャーに上り詰めることは至難の業だ。巨人では物の数でなかった村田が過酷な出世レースを生き抜いてメジャーに到達したことは掛け値なしに称賛に値する。
それに対しイチローは今季もケガをせずにフル稼働した点は大いに評価できるが、打率は2割2分台まで落ち込んだ。出場しても貢献が伴わなくなっている。
■技能賞=青木宣親(ジャイアンツ)
●その他、候補者:上原浩治(レッドソックス)
青木がメジャーで最も高く評価されているのは、三振をしない技術の高さだ。今季メジャーの打者(300打席以上)で三振する比率がもっとも低かったのは青木の6.4%だった。これは追い込まれてもカットで逃げることに長けているからだ。大リーグでは四球が三振より多い打者は高く評価されるが、青木は今季、三振25に対し四球が30もあったので、選球眼のいい好打者という評価は不動のものになった感がある。
上原はボール球を振らせる技術を高く評価されている。特に打者を追い込んでからスプリッターを意識させておいて、高目のボール球を振らせるテクニックは他の追随を許さない。逆のパターンもしかりだ。
ただ今季は、ピンチになった時の制球がイマイチで、ボールになるスプリッターで空振りをとれずに苦労するケースも何度かあった。それを考慮すると技能賞は青木に軍配が上がる。
スポーツジャーナリスト・友成那智
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。