その草分け的な事件が2013年に発生した「しまむら土下座事件」だ。これは当時43歳の女が、Twitterに女性店員2人が土下座する画像をアップロードし、
「従業員の商品管理の悪さの為に客に損害を与えたしまむら○○○店の店長代理☓☓☓と△△△」
と実名入りでツイートしたこと。店員がなぜ土下座をする羽目になったのかは不明だが、『週刊現代』(講談社)が報じたところによると、女はタオルケットを購入後に「穴が開いている」と難癖をつけ、再来店。「金を返せ」などと店員を脅し、土下座をさせた。
当時、世間ではTBSドラマ『半沢直樹』が流行しており、ドラマのワンシーンを模倣して他人に土下座を強要し、それが自分の権力を誇示するような風潮もあった。そのようなことも、犯行に影響したのかもしれない。
ツイートは瞬く間に拡散され、女に批判が集中。そしてTwitterにアップロードされていた画像をもとに特定作業が開始され、あっという間に実名と居住地が特定される。これにしまむら側も憤りを覚えたのか、警察に被害届を提出する。
現在では当たり前だが、当時はこのような土下座の強要で逮捕されると考えていた人が少なく、「大した罪にはならないのでは」という見方もあったが、北海道県警は事態を重視し、女を強要罪で逮捕する。女は批判噴出後アカウントを削除して証拠隠滅を図ったが、捕まる。このニュースにネット界隈はかなりざわつくことになった。
この「しまむら事件」は、クレーマー対応が「謝るだけではダメ」ということを世間に知らしめるとともに、土下座を強要することが逮捕要件となること、そしてTwitterに画像をアップロードすることで炎上すると、過去の写真などから自身が特定されてしまい、それが一生残ってしまうことを世間に認知させた。
しまむら事件後も同じような行動を取る人物は存在しているが、仮にこの事件がなければ、逮捕に至っていない可能性もある。「ネット炎上による逮捕」の流れを作った大きなターニングポイントとなった事件だった。
文・櫻井哲夫