久しぶりに瞳ちゃんから「時間ある? ごはん行こう!」と電話があった。以前から行きたいと思っていたパスタのお店に向かうことに。わたしは、エビとカニのクリーム系のパスタ、瞳ちゃんはカルボナーラにした。最近は学校がどうだの、といった話をしているうちに、ほぼ二つとも同時に到着したのだけど、瞳ちゃんのがペペロンチーノだった。ちゃんと、注文する際に確認したはずなのに。
「ちょっと! こんなの頼んでない、何よ、ペペロンチーノって! ニンニク入ってるんでしょ!? これから接客業する人間によくもこんなもの出せるわね!!」
気の弱そうなウエイトレスの子が、「あ、あの…すみません、今確認してきます」
「確認って何? わたしはカルボナーラを頼んだのよ! さっさと持ってきなさい!」
「でも、伝票には」
「はぁ? そっちのミスでしょ! さなちゃんも聞いてたでしょ」
確かに店側の落ち度だけど、瞳ちゃんの怒り方は異常で、ウェイトレスの子に、「あんたバカじゃないの、わたしを誰だと思ってるの?」と、そこまでキレるか? ってくらいに怒鳴りつけていた。
さすがに見かねたわたしは「もういい加減にしなよ」と言ったのだが「だってお店が間違えたのよ、それでこの態度は許せないし」と、一歩も引かない。どうにかその場はおさめたけど、お店を出てからも瞳ちゃんはしつこかった。
数日後。うちの店に新しいボーイが入ってきた。こういう仕事自体が初めてらしく、案の定そこそこありがちな失敗は一通りやっていたが、それでも店の営業に支障をきたすほどではなかった。そうこうするうちに、事件は起きた。
瞳ちゃん指名のお客さんがタバコを注文したかったようで、席に戻ったばかりの瞳ちゃんが「おねがいしまーす」とボーイさんに声をかけた。
その後にも他の席にいた嬢がボーイさんを呼ぶ声が重なったのだが、新人のボーイは瞳ちゃんより後から呼んだ嬢の方へ先に行ってしまった。瞳ちゃんは頭にきて「こっちが先なんですけど!」とイライラしながら再度声をかけた。が、彼は、自分のミスに気が付いたもののもうすでに違う席にいってしまったため、今更瞳ちゃんの方へはいけない。他のボーイたちはどうしたのかというと、運が悪く、違う席で滞在時間の延長交渉をしている箇所が重なっていて、動けなかった。
そして瞳ちゃんは新人ボーイのところへつかつかと歩み寄り、彼の所持していたトレイをひったくるとそれで彼の頭を殴り、「わたしが先に呼んだのよ? わたしを誰だと思ってるの?」と店中が注目してしまう言動に出た。
確かに気が強い方が、キャバ嬢としては売れっ子資質があるとはいうけれど、これじゃただのわがままな子。お客さん、怯えちゃってるし。ボーイに対してそんな態度とったら皆指名するのやめちゃうよ。案の定、その件以来数名のお客さんが指名変えしていた。当然。
将来子供を持ったら、間違いなくモンスターペアレンツにりそうな彼女と、友達でいることを考えなおした瞬間だった。
文・二ノ宮さな…OL、キャバクラ嬢を経てライターに。広報誌からBL同人誌など幅広いジャンルを手がける。風水、タロット、ダウジングのプロフェッショナルでもある。ツイッターは@llsanachanll