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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第92回 実質消費と実質賃金

 '14年7月の家計調査「実質消費支出」の結果が、総務省統計局からリリースされた。対前年比でマイナス5.9%。実質消費が前年同月比でマイナスになったのは、これで4カ月連続だ。
 要するに、4月の消費税増税以降、毎月、実質消費が1年前を下回る状況が続いているのである。
 予想(というより、政府の「期待」)に反し、7月の実質消費支出は対前年同月比でプラス化するどころか、マイナス幅が6月と比べてすら拡大してしまった。

 政府は「台風襲来が多かったため」と言い訳をするのだろうが、それはまあ、外食やパック旅行の減少ならそうなのだろう。
 とはいえ、問題の本質は外食や旅行ではなく、家電や家具といった耐久消費財の消費が落ち込んでいることだ。すなわち、消費税増税の悪影響が継続しているのである。
 さらに深刻なのは、新車販売台数(軽自動車含む)が、7月はもちろんのこと、8月も前年同月比9%減と、減少幅が「増税後最大」になってしまったことだ。
 7月は2.5%減だったのだが、8月にマイナス幅が拡大してしまった。新車販売台数の落ち込みは、どう考えても台風の襲来とは無関係であろう。

 一言で言えば、
 「消費税増税の反動減に対する反動増」
 が、全く起きていないというのが現在の日本経済なのである。

 実質消費支出約6%減少(対前年比)とは、どれほどのインパクトを持つだろうか。
 このままのペースで実質消費の対前年比減少が続くと、日本のGDPは消費の影響だけでもマイナス3.6%になってしまうという話だ(日本の民間最終消費支出は、GDPのおよそ6割を占めるため)。

 信じがたいことに、総務省はこんな事態でありながら、消費支出の基調判断について「このところ持ち直している」と、17カ月連続で判断を据え置いた。
 理由は、季節調整済みの前月比が0.2%減と、ほぼ横ばいにとどまっているためとのことである。
 0.2%減ということは、「減っているではないか」という話はさて置いても、消費税増税派の政府や官僚、識者たちは、
 「7〜9月期は、4〜6月期の反動減の反動があるため、景気は回復する」
 と、主張していたのではなかったのか。横ばい(実際はマイナスだが)ではダメである。
 7月以降に消費がV字回復しなければ、彼らの予測は外れ、政府にとって「想定外」の事態が進行しているということになるはずだ。

 ところで、本連載のタイトルは《三橋貴明の「マスコミに騙されるな!」》である。実質消費の落ち込みが続く中、更なる消費税増税を目論む財務省や政府は、マスコミを活用して国民を「騙してくる」ことが確実なので、注意して欲しい。
 そもそも、今回の消費税増税の悪影響が'97年時と比べてすら大きいのは、国民の実質賃金が低下しているためだ。
 実質賃金とは、名目賃金の上昇率から物価上昇分を控除した値になる。名目(金額)で見た賃金が増えていても、それ以上のペースで物価が上昇してしまうと、実質的には「賃金の減少」になるわけだ。

 '97年の消費税増税は、国民の実質賃金の上昇局面で行われた(それでも、増税の悪影響を吸収しきれず、日本経済はデフレに突っ込んだ)。
 今回は、実質賃金の下降局面における増税なのである。
 実質賃金が低下している状況で、消費税増税で強制的に物価を引き上げると、結果的に、実質賃金は更に低下し、国民は支出を絞り込み、消費が減る。当たり前すぎるほど、当たり前の話だ。

 '14年7月の毎月勤労統計調査における実質賃金(速報値)を見ると、現金給与総額が対前年比でマイナス1.4%、「きまって支給する給与」が同マイナス2.4%であった。
 7月はボーナスの時期であるため、現金給与総額(実質値)のマイナスは1%台に収まった。とはいえ、デフレマインドに冒された日本国民が、継続的に消費や投資を拡大するためには、所得総額ではなく恒常的な所得の安定的な拡大が必要である。
 すなわち「きまって支給する給与」で見なければ、実態は把握できない。「きまって支給する給与」の実質値は、残念ながら対前年比マイナス2.4%と、まだまだマイナス幅が大きい。つまり、国民の貧困化は継続している。

 問題だと思うのは、消費税増税や円安の影響で物価が上昇傾向にある現在の日本において、マスコミが毎月勤労統計調査を報じる際に、見出し等で名目(金額)の数値を強調していることだ。
 例えば、本件についてTBSは「7月の毎月勤労統計調査、現金給与総額10年ぶりの伸び率」とした。
 日本経済新聞は「給与総額17年半ぶりの高い伸び 7月2.6%増」という見出しで報じた。
 別に嘘ではないのだが、物価上昇率に賃金の伸びが追い付いていない(=実質賃金が低下している)状況で、名目の給与総額を強調して報じる姿勢は頂けない。

 安倍晋三政権や財務省は、2015年10月1日の更なる消費税率の引き上げを、何としても実現しようとしている。
 そのためには、国民に、
 「すでに賃金は上昇に転じており、消費税率を10%に引き上げても問題ない」
 と、思い込ませなければならない。
 だからこそ、実質賃金ではなく名目(金額)で見た賃金水準が大きく報道されているのではないか、と、勘ぐりたくなってしまったのは、別に筆者だけではあるまい。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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