日馬富士は08年11月の九州場所後に大関昇進。3場所目の09年5月の夏場所で初優勝を果たしたが(14勝1敗)、その場所以外は故障もあって、とても大関にふさわしい成績は残せなかった。先場所までの大関在位14場所で、大関の責務といえる2ケタ勝ったのは優勝した場所を含めて、わずか6場所。しかも、2ケタといっても優勝した場所以外はすべて10勝5敗で、優勝争いに絡むことすらできなかった。他の場所は9勝6敗が4回、8勝7敗が3回、途中休場による負け越しが1回と低迷していた。
八百長問題の発覚で、先場所(5月技量審査場所)より、すべての取組がガチンコとなった。こうなると、問われるのが真の実力。日馬富士は先場所、10勝に終わったが、この名古屋場所では初日から14連勝。14日目には白鵬を自力で破り、ガチンコの強さを見せつけた恰好だ。
今後、がぜん注目されるのが、綱取りが懸かる来場所だ。7月25日の一夜明け会見で、日馬富士は「一日を大事にして、上を目指す努力をしたい。今日から来場所に向けて、やっていきたい」と意欲を見せた。ここで、日馬富士に追い風になったのが同日に開かれた横綱審議委員会(横審)の会合内容。鶴田卓彦委員長は「優勝であれば、かなり綱獲りが濃厚。準優勝でも3つ、4つ負けたらちょっとね…。1敗が限界じゃないか」と準優勝でも星次第で昇進を推薦する主旨のコメントを残した。
横審の内規では昇進の条件は「大関で2場所連続優勝か、それに準ずる成績」となっている。だが、86年の千代の富士(現九重親方)の1人横綱時代に、“お家の事情”で優勝なしで無理やり昇進させた双羽黒(北尾光司=後にプロレスラーに転向)が、部屋とのトラブルで優勝ゼロのまま短期間で廃業したことを機に、昇進条件は厳しくなった。90年の旭富士(現伊勢ヶ浜親方)以降は「2場所連続優勝」が絶対条件となっていた。しかし、昨年1月の初場所後に朝青龍が引退して以来、一人横綱となった白鵬への負担は、土俵内外でも大きく、昇進条件緩和の機運が高まった。
もちろん、2場所連続優勝であれば文句なしだが、準優勝でも星次第で横綱昇進の目が出てきた日馬富士。もはや、ガチンコしか許されない土俵とあって、この運をつかむかどうかは、日馬富士の“リアルな実力”に懸かっている。
(落合一郎)