ある日、私が仕事の企画書を書いていると、K嬢(20)から電話があった。
「Kちゃんのことを考えてたよ」
私は言ってみた。「嘘っ! 本気にしちゃうよ」と、やや照れたような声でそう言いました。
ただ、これも営業電話の一環なのですから、お店への誘いの入り口にすぎません。K嬢はノルマが厳しい店に勤務しているので、同伴出勤が不可欠。そのための電話だったことは私も承知しています。K嬢から電話がくるときはいつも、同伴の当てがないときですから。
「助けてよ」
やはり、想定通りの会話になってきました。しかし、ちょっと違ったのは、同じ店のほかの子と連絡を取っているかどうか聞かれてからでした。
「メールは来たけど、一往復くらいしただけだよ」
と言いました。するとK嬢は、
「もっと、ギラギラしたり、がっつかないとメールこないよ」
とアドバイスめいたことを言います。
「がっつくってどんな風に?」
「どんどん攻める感じかな?」
「エッチしようとか?」
と極端に聞いてみました。「そう、そう」というので、
「じゃあ、Kちゃん、エッチしようよ」
と聞いてみた。「嫌だよ」と言われるのを想定したのですが、「いいよ」との返事だった。まさか、そんなうまい話があるはずがありません。
「ホントかよ」
と言ったら、「いいよ」ともいいます。こんな会話をしても本気にするのも変ですよね。とはいっても、ドキドキはするものですね。
「どのくらい本気で言ってるの?」
「うふふ(笑)」
「15%くらいか?」
「そのくらい」
「まじか。本気にしちゃうぞ」
と言ってしまいました。どうして「15%」という数字が出たのかはわかりません。きっと、私の中に、多少は本気でいてほしいという気持ちもあったのでしょうか。もちろん、これは営業トークですから、嬢としての本分は守っていると思うのです。だからこそ、
「エッチするには、まず奉仕してくれないとだめでしょ」
K嬢とは長い付き合いですから、本気で営業としてエッチする子でもないことも知っています。私に対して枕営業をする嬢でもありません。でも、こんな会話ができる嬢がなにげに好きです。
別の話ですが、最近、ある歌舞伎町のキャバクラに行きました。1セットで3〜4人が入れ替わり立ち代わり、私の横に着きました。そのうちの1人のA嬢(23)が、
「やさしそうですね」
と言ってきました。キャバ嬢でそういうフレーズを使う人ほど、私には興味がなく、どちらかといえば、会話が苦手な子が多いと思っていたのですが、A嬢は違っていたようです。本当にそう思っているかのような笑顔で、話を続けてくれます。
私がキャバクラに行く理由の一つに、「うまくだまされたい」というのがあります。お金を払い、お酒を飲むだけなら、キャバクラには行きません。嘘でもいいから、この目の前の空間だけでもいいから、自分自身が嬢にはまりたい。そう思って通っていますが、そこまではまれる嬢もなかなかいないものです。
しかし、その可能性がある嬢がそこにいました。こんな感覚は数年ぶりのような気がします。でも、そこはキャバクラです。頭がいろんな計算をしてしまいます。このキャバクラの常連だった知人にアドバイスを受けてみました。
「その子、何番目に着いた? あくまでも一般論だけど、1人目と3人目はやり手をつけるんだよ。2人目と4人目はちょっと落ちる子かな。1人目で、『なかなかいい店だ』と思わせて、2人目で期待を外す。3人目でもう一度期待値を上げるんですよ。そして4人目でまた外す。すると、1人目と3人目で期待値があがっているから、延長したくなる。店側の作戦ですよ」
思い出してみた。そういえば、A嬢は3人目だったな。でも、あの会話を期待しちゃうんでしょね。
「席を離れたときに、(指名で)呼んでくれるのかな?ってずっと思ってた。気になっていたから」
「本気にしちゃうぞ」
「いいよ」
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
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