祭は参詣者にワカメの味噌汁をかけるというユニークなもの。厄除けを願う作法だが、近年はさすがに味噌汁はかけられず、ふるまわれている。
由来はこうだ。昔、葛城山への日参で村の筋街道を通っていた役行者に娘が恋をした。だが修行一途で見向きもされなかったため大蛇と化し、行者を飲み込もうと森の“穴”に隠れる。田植えに向かった村人が大蛇に遭遇し、持っていた味噌汁をぶっかけて逃れることができた。その後、井戸に入った大蛇は大石でふさがれ、手厚く供養されたという。
蛇がトグロを巻き丸くなっている状態を“サラキ”と呼ぶ。また“サラギ”は「新来」と同義語とされる。蛇の伝説と渡来文化が色濃い葛城地方の特色。字面と読みがかけ離れた地名誕生の謎は、このあたりにあるようだ。
さて迎えた正午。藁で作られた14メートルほどの蛇綱(じゃづな)が、笛や太鼓に先導されて神社を出発する。蛇綱は迷路のような地区内を引き回され、各戸の邪気を払って廻る。綱の主な引き手は子供たち。軽快なお囃子が近づくと住民たちは玄関先に出て、蛇綱と子供たちの訪れを待つ。何とものどかで、心温かい祭だ。やがて境内に戻った蛇綱は鳥居脇の「蛇塚」の上でトグロに巻き納められ、秋祭りを静かに待つことになる。
これは「蛇綱曳き」といい、奈良で盛んな農耕儀礼「ノガミ行事」の一種。5〜6月にかけ、市内を含めた各地で地域性豊かに繰り広げられる。蛇穴の蛇綱曳きは6月13日、「平城遷都1300年祭」のイベント会場で再現される予定だ。
(写真「蛇塚の上でトグロを巻いた蛇綱」)
神社ライター 宮家美樹