いまさら振り返るまでもないが、未勝利→阪神JF→チューリップ賞を規格外の末脚でぶっこ抜き、鮮やかに3連勝。そのいずれもが格言を吹き飛ばすに余りある異次元のパフォーマンスで万人のハートをわしづかみした。
唯一の敗戦となった10・26のデビュー戦も、先着を許したのは来週の皐月賞でもV有力候補と目されるアンライバルド、リーチザクラウンの牡馬2頭。しかも、それらを相手にメンバー最速の上がり3F33秒5を刻んだのだから、負けてなお強し。何ら汚点にはならない。
唯一、「粗探しがあんたらの仕事やからな」と金魚のフンのように付きまとう記者を一蹴した松田博調教師に一瞬、顔色を変えさせたのが、「ベガ(1993年桜花賞1着)に比べて自信度は?」という質問。「アレとは脚質が違う。こっちは後ろからくるからな」という答えを返す前に、かすかにあいた“間”が大番狂わせへのわずかな可能性か。
といっても、それは1%にも満たない。「先週、競馬が終わった後に馬場を実際に歩いたんだが、内が荒れていて外が伸びるコンディション。要するに外から差すブエナビスタ仕様の馬場」とは某調教師。その証言通り、外差しが一気に決まり出した今のターフコンディションは、“大外ひとマクリ”という彼女本来の競馬が最もコースにフィットした戦法になる。経済コースを通る必要性はまったくなく、詰まる、挟まれるというアクシデント的な敗因要素も完全に排除された。
「追い切る前も、追い切りも、追い切り後もすべていつもと一緒。強い馬は変わりないことが一番。ここ一番なんて考えないでええんや。たとえ出遅れても、前が詰まっても、ケツまで下げて外からマクッたらええだけ。それでも、間に合うと安藤君も思っているはずや」
いつもながら、ぶっきらぼうに松田博調教師はキッパリと言い切った。
ここ数年、競馬界の屋台骨を引っ張ってきたダイワスカーレットが引退し、ウオッカもドバイで惨敗。ダメージも深い。そんな中に現れたブエナビスタを前に「まずは1冠を取る」という師の言葉が心に響く。新女怪物の独壇場をとくとご覧あれ!!