なぜなら、一部の地元住民から「呪われた屋敷」として知られているからだという。15年ほど前、同所では一家皆殺しの惨劇があったとうわさされている(そのうち何人かは生き残ったとも言われている)。
そのためか、この地の周辺では幽霊や人魂の目撃談が相次ぎ、近所の住民から恐れられているのだ。だが表向きにその話はできないらしい。その理由は、その屋敷の現在のオーナーが超大物であるからだという。
この「ブルジョア層」の間のみでささやかれる心霊スポットに潜入を試みた者がいる。
ある夏のこと、どこからかこの屋敷のうわさを聞きつけた4人組の男女が屋敷の構内に忍び込んだ。
「本当にここで一家皆殺しがあったんだろうな」
「マジだって。俺がおじさんから聞いた話によると、犯人は家族人員の首を刃物で切り落としたらしいよ」
「きゃ〜!やめてよ。そんな話、気持ち悪い」
「ちょっと、みんなあれ、あそこに人が」
1人が指さした先には、なんと老婆が悠然と立っていたのである。ネグリジェ姿にナイトキャップを被った老婆は、眉間にしわを寄せながらつぶやいた。
「こんな夜に、人様の敷地に入り込むなんて…あなた方、なんですの?」
かなり、ご立腹のように見えた。誰もいない空き家と思っていたが、管理人がいたのだ。4人組は自分たちの軽率な行動を少し後悔した。
リーダー格のKがとりあえず、場をつくろうことになった。
「すいません。冗談半分で、こんなことをしちゃいまして…僕たち、決して悪気があってこんなことをしたわけじゃ…」
Kが下げた頭を上げると、老婆の姿が目の前から消えていた。まるで、かき消すかのようにふっ、といなくなっていたのである。
「ああっ、あのばあさん、どこに行ったんだ」「怒って出ていったのか?」
4人は口々に騒いだ。
「まさか、あの婆さん、死人じゃないだろうな」
Kが唇を真っ青にしてつぶやいた。一同に冷たい沈黙が流れた。
そのうち一番怯えていたH子が、庭に積もった落ち葉の間から一枚の古い写真を拾った。
「なんだろう。この写真、何十年も前みたい。白黒写真だわ」
5人の姿の写った古ぼけた家族写真であった。時間の止まった家族の団らん。
「おい、よく見ろよ、写真にあの婆さんが写ってるじゃないか」
「本当だ。何十年も前の写真に写っている老婆が、今も老婆のまま生きているなんてことはないよな」
なんとその写真には、あの老婆がにこやかに写っていたのである。
「あのおばあちゃんって、死人なんだ」
H子がつぶやくと、全員の顔色が変わった。もはやパニック状態に陥った4人は狂ったように出口に殺到した。でもなぜか、開かないのである。最初、簡単に入れた入り口のドアが開かない。
「どうして開かないんだ」 「誰か早く開けてよ」
4人の恐怖はピークに達した。その時、背後から人の声が聞えた。4人が怖々と振りえると、そこには先ほど見た家族写真の5人がいた。
ただ、ひとつだけ写真と違ったのは、全員が生首だけで宙に浮いていたことだった。
(監修:山口敏太郎)