search
とじる
トップ > ミステリー > 【TVでおなじみ山口敏太郎の実録“怪”事件簿】〜俺がもう一人いる〜

【TVでおなじみ山口敏太郎の実録“怪”事件簿】〜俺がもう一人いる〜

pic pic

画像はイメージです

今年50代に突入するSさんは、運転手になって30年が経つ。

筋肉隆々のたくましい腕、日焼けした顔は、まさしくベテランドライバーの風貌だ。

「まあ、そうさな〜。車の運転なら、誰にも負けねえよ」

とうそぶくSさんは、若い運転手に交じり、東京〜大阪間を3日に1回往復する生活を続ける。運転席はゴージャスな飾りや、各地で買った土産物で埋め尽くされている。

「まあ、俺はまだまだ現役だし、プロだもんな〜。最近車、転がし始めた若いもんにはまだ負けるわけにはいかねえな〜」

自分の腕だけで生きてきた職人の自信は、Sさんを現実主義者にしていた。当然、幽霊は一切信じない。怪談話を口にする人間のことは馬鹿にしていた。同時に、自動車という「科学の結晶」に勝るものなどこの世の中にはないと思っていたのだ。

「ばかばかしいと思ってさ。そりゃそうさ、俺は幽霊なんかいないと思ってたんだし…あんなものを見るまではさ」

Sさんは、はにかむように鼻の頭を掻くと、奇妙な話を語り始めた。

まだ、世の中が「昭和」と言われていた頃の出来事である。

その日、Sさんは東京の某倉庫を、真夜中に出発した。

「ちくしょー、俺だけ何でこんなに積み込みに時間がかかるんだい。これじゃ間に合わねえよ。どうしてくれるんだ」

バックミラーで、シャッターを卸すフォークマンを見ながら、Sさんは荒々しくハンドルをさばいた。その日は運の悪いことに、Sさんが積み込む荷物の出荷に時間がかかり、いつもと比べて1時間遅い出発となっていたのだ。

(このままじゃ、明日の朝に間に合わない。不眠不休で走るか)

Sさんはかなり焦っていた。大阪に着くべき時間は朝5時である。このままでは間に合わない。Sさんの車が到着しないと建築現場の工事が進まないのだ。まして職人たちは、遅れがちな工事の進行を取り戻すために、早出して現場に詰める予定だと聞いた。

(何とか間に合わせないと)

職人気質のSさんは、缶コーヒーをがぶ飲みしながら、車を走らせた。真夜中の高速道路を、車を斜めにしながらハイスピードで駆け抜けていく

当然、車のスピードはぐんぐん上がり、大型トラックとは思えない素早さで走り抜けた。先行車をどんどん追い抜いていくうちに、Sさんの心に慢心が芽生えた。

(ふふっ、やっぱりな。おれはまだまだ誰にも負けない)

負けず嫌いのSさんは、いつしか得意になってハンドルをさばき始めていた。

そのとき、Sさんはある車に気付いた。

(あの車は、さっきから何度抜いても抜き返してくるようだ。全く生意気な奴だ。ちょっといたぶってやろうか!)

Sさんがよく観察すると、自分と同じ車種であった。しかも、塗装に社名、そしてボデイにいたずらで貼ったステッカーも一緒という始末。

(誰なんだ、誰が運転してるんだ。おっ、おかしいぞ。あんな車、見たことないぞ。うちの会社にもう一台あったのか)

不思議に思いながらSさんは、その車を追い越した。しかし、また5分もたたないうちに追い越されてしまう。そんな応酬を何度か繰り返した。

(この野郎、あくまで俺と競争するつもりだな)

再び熱くなったSさんは、追い抜きざまに相手のナンバーを確認した。

(なんだって。ありゃ、俺のナンバーと一緒じゃねえか、そっ、、そんな、ばっ、ばかな。偽造ナンバーか?)

Sさんは、混乱し、いつしかハンドルを持つ手は汗ばんでいた。

(運転手の顔を見てやれ。ええっ、誰なんだ)

相手の車がSさんの隣に並んだすきに、Sさんは相手のドライバーの顔を確認した。

(……俺だ、俺がもうひとりいる)

何とその顔はSさんの顔だったのである。

しかも、頭部がざっくりと割れ、血と脳みそがあふれ出している。

唖然とするSさんを後目に、そのもう一台のトラックとSさんの「分身」はゆっくりと半透明になり、夜の闇に消えていった。

(あれは、事故で死ぬ自分への警告だったのだろうか)

Sさんはそう反省した。その日以来Sさんは、安全運転を第一に心がけるドライバーに変わった。

(監修:山口敏太郎事務所)

関連記事


ミステリー→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

ミステリー→

もっと見る→

注目タグ