これは「マラソン=長距離」との認識で間違いないだろう。確かに、今大会を振り返っても世界とのレベルは縮まるどころか広がる一方だと感じざるを得ない。
もっとも、男子は今に始まった傾向では無いので、(世界との差を痛感しても)さして驚きは無い。が、問題なのは女子だ。
今大会の女子マラソンではケニヤ、エチオピアの選手が1〜4位を確保。赤羽(有紀子)が何とか5位に滑り込んだ格好だ。2年前の前回・ベルリン大会では今大会21位の尾崎好美が2時間25分25秒と快走、銀メダルを獲得した。その事を考えれば、今回の尾崎を始め、日本選手団の凋落は一般視聴者にとって、理解に苦しむところであろう。
だが、僕の意見では今大会の「赤羽、5位がやっと」はタマタマの結果では無い。いや、それどころか今後、日本女子はメダル獲得が困難になるとさえ、考えられるのだ。
今回大会の女子マラソン・ベスト4は陸上長距離先進国のケニヤ、エチオピア。しかも、今大会(女子マラソン)は前半、信じられないほどのスローペース。男子ならばアフリカ勢が、相手など意識せず、自分たちのペースで試合を作る。つまり、どんな大会であっても日本人から見れば、ハイペースで試合が進められていくもの。今大会(女子)の様な周囲の選手や展開を意識して走る事など信じられない。だが、実はここがポイントだ、と僕は確信している。
僕が世界選手権を走った2001年当時(エドモントン大会)は今大会の女子と同じでケニヤ、エチオピアというアフリカ勢が「最初から飛ばす」という事はしてこなかった。あくまで、先頭集団のペースに合わせ、スローペースで走ったのを記憶している。
今とは180度異なる戦法だった訳だが、僕が思うに当時のアフリカ勢は「マラソンの走り方を知らなかった」だけだと思う。当時は、無理してスローで走っていた為、アフリカ勢は最後までリズムに乗れなく、結果として勝つには勝つが凡タイム−−又、負ける時は大惨敗…という感じであった。
それが今はどうか−−。彼らはレースを積極的に引っ張り、自分たちが主導権を握る展開に持っていっている。こうなると、スピードの無い日本選手団は苦戦を強いられ、勝ち負けに拘わる事など出来ない。イコール入賞を狙うのがやっとで、国民感情的には「男子は弱い」となる。
今大会の女子マラソンを見ているとまさに僕が世界選手権に出場していた時の男子アフリカ勢と同じ状況。この状態が続くうちは、彼女達(アフリカ勢)のペースさえ乱せばいいので、日本選手にも勝機はある。ただ、男子選手を参考すればお解かりの通り、女子アフリカ勢もあっという間にマラソンの走り方を取得するだろう。そうなると、今の日本女子では全く歯が立たなくなる。
事実、トラック競技などは、例えば5000メートルの予選で出場した新谷仁美は、最初からトップを狙っていない。予選通過のギリギリを目標に走っていたのが印象深かった。それはラストスパートを見ても一目瞭然だ。トップ集団のヨーロッパ、アフリカ勢は余力を残して走っているのに新谷は肩肘が力み、足は伸びきっていて明らかに一杯一杯。これが「世界の差」なのだ。それでも「予選通過」という目標が達成したのだから合格だろう。
偶然にも女子マラソン5位の赤羽も新谷と同じく「勝ちに行く」のではなく「落ちてきた選手を拾う」に徹していたが、これこそ近未来の日本女子マラソン像だ。国民感情的には「前途は非常に暗い」という訳だが…。
冒頭の「日本女子はなぜ世界に通用しないのか」−−答えは、アフリカ勢が本気でマラソンや長距離に取り組むと日本は勝てません。標高3000メートル付近で生活している彼女達と環境が完璧な位、整っている日本ではハングリーさが全く違う。ヌクヌクとした温室育ちの日本と日々、様々な障壁と立ち向かっているアフリカでは全てにおいて「格」が違う。解かり易く書けば、「ポテンシャルが違う」という事。
「男尊女卑が根強く残っている土地柄、女子はこれまで富裕層のみが参加していた競技(陸上)だが、最近は日本を始め世界のエージェントがアフリカは人材の宝庫という事に着目し、積極的にスカウティングをしている。その結果、徐々にアフリカ勢が強くなってきている」
これは、僕の所属事務所社長がよく話している内容だ。勿論、これが全てでは無いにしろ、こう言った背景がバックにある事は間違いないだろう。
今回、「日本の未来は暗い」を強調する内容になってしまったが、これは僕の見解。解説者の多くは「女子はまだ勝てる」と論じている。どちらの意見を取るのかは、読者のみなさんが好きに決めてもらいたい。
次回は9月1日に実施した安中榛名・松井北中での体育指導の話を書かせてもらうつもりだ(今回の写真はその時の模様を一部使用しました)。
※9月1日より芸名が変わりました。これまでは「西田隆維」とかいて「にしだたかゆき」と呼んでおりましたが、これからは「にしだりゅうい」と呼んで下さい。
<プロフィール>
西田隆維【にしだ りゅうい】1977年4月26日生 180センチ 60.5キロ
陸上長距離選手として駒澤大→エスビー食品→JALグランドサービスで活躍。駒大時代は4年連続「箱根駅伝」に出場、4年時の00年には9区で区間新を樹立。駒大初優勝に大きく貢献する。01年、別府大分毎日マラソンで優勝、同年開催された『エドモントン世界陸上』日本代表に選出される(結果は9位)。09年2月、現役を引退、俳優に転向する。9月3日スタートのラジオ番組「週刊 西田隆維(りゅうい)」(FMたちかわ)のメーンパーソナリティ。