時はゴールドラッシュに沸く西部開拓時代。お馴染みの埃っぽい画像の中を、馬に乗った殺し屋兄弟が、雇い主である提督の命令で1人の男を追います。
標的は、川の中の黄金だけを発光させて見つけやすくする薬品を開発した化学者。拷問してでも、その薬品を作る化学式だけを白状させて、本人は始末してしまえ…と。
えっ、化学者? 化学式? ひょっとして、ここは笑うとこなのか? と少々戸惑うと思います。超アナログの1850年代に、唐突に現代風味が紛れ込んできたような違和感です。
しかも、この化学者は黄金を元手に暴力や貧富の差のない理想の社会を作る夢を語る、妙に浮世離れした男。従来の西部劇であれば、分かりやすい勧善懲悪がパターンですよね。たとえば、村人を助けるために、流れ者のヒーローが悪党連中と闘うとか。
でも本作は、主人公が無敵に強い殺し屋兄弟ですから、めったやたらに殺しまくります。昔から度胸もないくせに、悪や殺人を憎む気持ちが人一倍強い自分は、見ていていったい誰に感情移入していいのかと…。
ただ、原作がブッカー賞の最終候補になるだけあって、敵だと思っていたら仲間になったり、西部劇に化学を掛け合わせていたりと、ストーリー上の裏切りや捻りは効いています。人間が持つ様々な欲望に翻弄される寓話として見ると面白いかもしれません。
皆がとち狂い、獲得するために殺人も厭わない黄金といっても、しょせんは川の中の砂金です。人間って、哀れな程にせこいですよね。何かで読んだ話ですが、数千年の歴史の中で、人類が採掘した世界中の金を合計しても、プール一杯いかないそうです。それだけ希少な鉱物ではあるのだけれど。
そういえば、子供の頃、黄銅製の5円玉やボルトがありましたね。それが金の輝きに見えて、見つけるとテンションが上がっていました。最近も、金そのものに見える輝きを放つ腕時計を古物市で1000円で買い、気に入って着けていましたら、「高そうな時計、はめてる!」と褒められたりして。
そんなもんですって。フェイク上等。こんな自分には、砂金を探す男のロマンが分からない。フェイクで満足している人間に金の価値を語る資格はないのかもしれません。
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■ゴールデン・リバー
監督/ジャック・オーディアール 出演/ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッド 配給/ギャガ 7月5日(金) TOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー。
■ゴールドラッシュに沸く1851年のアメリカ・オレゴンのとある町。最強と呼ばれる殺し屋兄弟の兄イーライ(ジョン・C・ライリー)と弟チャーリー(ホアキン・フェニックス)は、政府からの内密な依頼を受けて、黄金の見分け方を知る化学者(リズ・アーメッド)を追う。政府との連絡係を務める男(ジェイク・ギレンホール)とともに化学者を追う兄弟だったが、ともに黄金に魅せられた男たちは、成り行きから手を組むことになるが…。
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やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。画像提供元: