ひとつ積んでは父のため、ふたつ積んでは母のため…。子ども達は悲しげに唄い、父母恋しと泣きながら、小さな手を泥と血にまみれさせながら、石を一つ一つ積み上げて塔を作るのである。だが、苦難の末に出来上がった塔を恐ろしい地獄の鬼が無情にも壊してしまう。
泣き叫ぶ子どもたち。お地蔵様は、そんな可哀想な子どもたちに慈悲の手を差し伸べるのである。
青森県の下北半島にある恐山をはじめとし、日本各地には、子供を守るとされる地蔵信仰と結びついて「賽の河原」と呼ばれる霊場がある。
千葉県の鴨川市の海岸沿いには、房総半島唯一の賽の河原がある。岸壁に海を望みながらひっそりとたたずむ洞窟の中にある「西院の河原地蔵尊(天面賽の河原)」。
一歩中に入ると、なんともいえない空気の密度を感じる。重苦しい雰囲気に包まれていて、明らかに外界とは違う異世界が広がる。
ここでは水子や幼い子供だけでなく、未婚の若者なども供養されている。大小おびただしい数の地蔵が祀られており、見る者を圧倒する。亡くなった我が子のためなのだろう。たくさんの玩具や人形が供えられていた。しかし、どれもほこりを被って古びているものばかりで、見ているだけで胸が締め付けられる。そして、数多く並べられた遺影が無言で見つめてくるのである。
ここに渦巻く一種独特の空気感は、死者の念ではなく、生きている者の様々な想いなのかもしれない。
(呪淋陀)