官邸の締め付けは相当厳しかったようだ。反旗を翻せば、内閣改造後のポストがおぼつかなくなるし、選挙での公認も危うくなる。少なくとも自民党の国会議員の大多数がそう思っていたからこそ、すべての派閥が安倍再選を支持し、無投票再選につながったのだ。
そう思わせる兆候はあった。例えば、自民党女性局長の三原じゅん子氏は、8月に発表された参議院選挙の一次公認リストからもれている。前回の総裁選で石破茂氏支持の中心メンバーだったからだと言われている。議員は選挙に落ちればただの人になるが、選挙に出られなくてもただの人になってしまうのだ。
石破茂大臣は、安倍再選が決まった直後に、自身を支持する同党国会議員で構成する「無派閥連絡会」を母体として、通常国会終了後に派閥を結成する意向を明らかにした。「いまは風向きが悪いので次を期す」ということなのだろう。しかし、それは保身以外の何物でもない。何しろ、安倍総理の暴走によって国民の6割以上が反対する、憲法違反の安全保障関連法案が強行採決されようとしているのだ。いま見識を示さなければ、政治家としての見識を示すときはないだろう。
実は、みなが保身に走って独裁に屈服する事態は、官僚の世界でも同じだ。先日、地方で講演した時に、話かけてきた農家の男性が私にこう言った。
「つい最近まで、農水省の役人は農家の味方だった。ところが、安倍内閣になってから全中解体とかTPP交渉での聖域開放など、農家の足を引っ張ることばかりやるようになった。どうやら、農家の敵に回らないと出世が望めないようだ」
私も昔、2年ほど霞ヶ関で働いたが、そのときの農水官僚は、国益よりも農家の利益を考えているような人ばかりだった。だから私には、最近の農水官僚の態度は、農家への裏切りとしか思えないのだ。
実は、同じようなことは、私の周りのコメンテーターの世界でも起きている。私が知る限り、多くのコメンテーターが、このまま安倍総理が続いたら日本が危ないということを認識している。「だったら、安倍政権を倒しに行きましょう」というと、「時期がきたら一緒にやりましょう」と言うだけ。いま反政権の声を上げれば、あっという間に干されてしまうから、時を待つということなのだろう。
しかし、声を上げなければいけないのは、まさに今だ。私は、安倍政権の初年度に行った金融緩和は支持してきたが、そこで安倍総理の役割は終わったのだ。金融緩和でパイを大きくしても、それが庶民の所得に回らなければ経済は成長しない。だからいまやるべき経済政策は、消費税の減税と企業や富裕層の増税だ。
安倍政権は、真逆の政策を続けようとしているのだから、すぐに止めないと経済が失速してしまう。日本中が保身に走るなかで、来年夏の参議院選挙が国民に残された最後のチャンスになるのではないか。