ところが、それ以上に深刻な問題があるという。松坂と地元メディアの冷戦だ。「地元の記者たちは、松坂に対して大きな不満を持っている。『松坂は我々に本当のことを言わない。日本から情報が逆輸入されてくる』という不信感は頂点に達しており、ぬぐいきれない危機的な状況にある。いつまた松坂トレード情報が流されてもおかしくない」。こう日本人メディアが対立状態の深刻さを明かす。
昨年、「松坂が、投げ込みさせないメジャー流調整を批判。首脳陣が激怒して、松坂をトレードへ」という情報が地元メディアを駆け巡ったが、その時の状況に近づいているというのだ。このメジャー流調整批判大騒動の火種は、松坂夫人の柴田倫世と親しい日本人女性フリーライターの書いた記事だった。日本のメディアに載ったこの記事を見た米メディアが大騒ぎして、松坂懲罰トレード情報が高まりを見せたのだ。
最終的には松坂が謝罪して、外部へ向けた情報リークに怒ったレッドソックス・フランコーナ監督も了解して一件落着になっている。が、問題は根本的な解決になっていなかったのだ。元凶は、松坂が所属している、夫人の柴田倫世と同じ芸能プロダクションのメディア戦略にある。実は、日本人メディアもその対応には不満を抱いているのだ。「インタビューに応じるから、それなりの高額なギャラは払え」という、お金優先、自分たちの都合だけの一方通行なやり方に対する批判の声は根強い。
今回、松坂トレード情報再燃の危機が訪れているのは、不思議でもなんでもないのだ。むしろ今後も、事あるごとに繰り返される可能性は大だろう。日本人メジャーリーガーの中で、松坂と対極にいるのが、エンゼルス・松井秀喜だ。ヤンキース時代から、あの激辛なニューヨークのメディアからさえ、「どんな事があっても毎日きちんと我々に誠実に対応するヒデキはナイスガイ」と絶賛されている。
巨人時代からの師匠である長嶋茂雄氏が「マスコミは我々とファンを結ぶ架け橋だ」という持論で、メディアとのコミュニケーションを大事にしてきた影響もあり、松井は自然体で丁寧な対応をする。松坂も西武時代にはメディアからの評判は悪くなかったのに。
「松井には日本のスポーツ紙出身の広岡勲という広報が付いているのが大きい。メディアが何を求めているかわかっているし、年齢も上だから、松井にズバリ直言できる。都合のいいことは書かせて、悪いことにはフタをする芸能プロダクションとは違う」。日本球界OBはこうズバリ指摘する。
日本人メジャーリーガーを取材する日本人記者の1人は、さらにこう付け加える。「代理人の差もあるのではないか。松坂に付いているボラス氏は辣腕だが、マネー最優先で何かと批判されている。一方、松井のエージェントのテレム氏は常識派で知られているからね」と。
いずれにせよ、松坂がメディアに対する態度を変えない限り、騒動の火種はくすぶり続け、いつ燃えさかるかわからない。