晩年見る影もなくやつれていたが、芸能史の生き字引と呼ばれたその知識を、データとして記録すべきであったという意見も出ている。演芸研究家である知識を活かし、「横浜にぎわい座」で観客に名調子を聞かせていたが、晩年にはその言葉も時折、呂律が回らなくなることもあった。
稀代の名司会者をここまで追い詰めたのは、とある事件がきっかけである。2008年03月にラジオNHK第1放送の番組『ラジオ名人寄席』で発生した「落語音源無断使用事件」である。
この番組は、落語史に造詣の深い玉置宏が秘蔵する古い落語名人のテープが披露されるのが目玉であり、マニアックなセレクトが巷の好事家を楽しませていた。だが、2008年2月10日に放送された先代の林家正蔵の音源が、87年にTBSラジオで放送されたものであることが判明。NHKがTBSに謝罪し、著作権料を支払った。だが、このような無断使用は、番組が放送されていた12年間において、NHK以外のメディア7社からも91演目にも上り、1千万を超える著作権料が未払いであることがわかり、玉置宏は番組を降板、『ラジオ名人寄席』も打ち切られた。
その後、玉置宏はみるみる痩せ衰え、周囲から心配されていた。この事件の際、玉置宏に対して、日本芸能実演家団体協議会理事職から辞任するように追い込み、玉置のライフワークともいわれた番組『昭和歌謡大全集』も降板させるなど、彼を必要以上に精神的に責め立てた人物の存在が囁かれ、一部のメディアでも、やり過ぎではなかったのかと非難されている。
ミスは誰にでもあることである。芸能界を支えた功労者に対して、ここまで追い込む必要があったのだろうか。