映画監督になった兄と共に小人を空き地で目撃したこともあるし、まったく違う異次元のような世界にも行ったことがあるという。
子供時代、中野に住んでいた彼女は近所の防空壕が気になっていた。
「あの中に入ってみたい」
薄暗い穴の奥をのぞき見るたびにそんな気持ちを抑えきれなかった。ある時、意を決した彼女は単独で防空壕に潜入した。そして、薄暗い穴倉を通り抜けると見知らぬ街に出た。
(おかしい、自分の住んでいる中野とは違う)
本能的に恐怖感を感じた。誰もいない街角、穴をくぐっただけでたどり着いてしまった奇妙な街。
(いけない、この街にいてはいけない)
漠然とそう思った彼女は防空壕を引き返し、元の町に戻った。
「多分、あのままあの街にいたら、もとの町には帰れなかったような気がするんですよ」
彼女が防空壕という境界を越えて迷い込んだあの不思議な街は、パラレルワールドなのか、それともタイムスリップしてしまった違う時間の街なのであろうか。
時に防空壕は、異界へのトンネルとなる事があるのだ。
監修:山口敏太郎事務所