1月12日、市民団体が大阪府を相手取り、大阪市に対し咲洲庁舎(旧WTC)への移転について総額96億円の損害賠償を求める訴訟を起こしたのだ。訴えたのは市民団体『おおさか市民ネットワーク』(藤永延代代表)と、フリージャーナリストの西谷文和氏ら85人。原告らは「咲洲庁舎の購入は、科学的な耐震調査がなされておらず、安易な支出で違法なもの」と主張する。
咲洲庁舎は、橋下市長が知事時代の'10年6月に、大阪市から約85億円で旧WTCビルを買い取ったもの。府議会の議論が移転反対、購入賛成と混乱する中で、部局の移転が進められていたが、昨年3月の東日本大震災で損傷し専門家から耐震性の問題を指摘されていた。結果、全面移転は断念したものの、現在も咲洲庁舎として使用され「府市統合本部」を中心に約2000人の職員が勤務している。
訴訟を受けて橋下市長は記者団に対し「議会での議論などのプロセスをきちんと踏んだ決定で僕が賠償責任を負うことになれば、自治体の長なんてできなくなる。府庁移転反対の人は、訴訟ではなく選挙を通じて民意を実現すればよかった」と、いつもの橋下節で、選挙による民意を強調したが、原告代表の一人、西谷氏はこう反論する。
「市長は民意と言うが、移転反対という議会を通じた民意は無視している。せめて継続審議に応じていれば、東日本大震災の時に違った結果が出ていた可能性がある。自分の考えだけで暴走し、大阪府に損害を与えた責任は大きい。裁判を通じて、民意とは何かを訴えたい」
また、原告弁護団の西川大史弁護士も指摘する。
「多数決で決められた民意がすべてというのなら、裁判所はいらないのではないか。民意の名の暴走に歯止めをかけたい」
「橋下さん96億円返して!」を旗印に進められるこの訴訟、もし訴えが認められれば、松井知事に橋下前知事を訴えろという判決が出て、結果、2人は否応なしに対立の局面に追い込まれるのだ。
「2人ともそんな訴えが通るわけがないとタカをくくっていますが、果たしてどうなるか。もしそうなったら、松井知事は、橋下市長からきっちりケジメをとってもらいたい」(ある原告)
橋下-松井の関係について、松井知事の後援者の一人はこう語る。
「手柄はあっち、汚れ役はこっちと、いくら信頼関係にあるとはいえ、松井さんはよく我慢しているなと思います。普通の人ならとうにブチ切れてますよ」
市議会・府議会の野党の間からは「もし維新の会に対立の気配が見えたなら、その時は火に油を注いでやる」と物騒な声もある。
一見、盤石に見える橋下−松井の名コンビだが、今後対立する可能性が出てきた。もし足元おぼつかない状況となれば、橋下市長の掲げる「大阪都構想」も危うくなるだろう。