店に入るなり、お客さんが満員ではないのに、客数よりもキャバ嬢の数が少ない「マイナス営業」だった。時間帯の問題なのか、あるいは、たまたま出勤していないキャバ嬢が多いのかは不明だ。
そんなマイナス営業だったので機嫌を損ねたのか、酔っているのも手伝って、飲み友が帰ろうとしてしまう。いま、帰っても終電はない。しかも、店に入ったばかりで、まだキャバ嬢が着いていないのだから、もっと様子を見ようと言って、私が連れ戻す。結局、1セットだけいることにしたが、マイナス営業のままだった。
その店への印象はそれほど悪くなかったものの、私は、「また行こう」とは思えなかった。しかし、再び、その店に行ってしまうことになる。私と飲み友と一緒に行ったもう一人に、営業メールが届いていたためだ。その男がいうには、キャバクラにはたまに行くが、営業メールをしてくるのは珍しい、というのだ。
キャバ嬢に対して、いつも強気に出ているその男は、あまりキャバ嬢と連絡先を交換しない。またしたとしても、数回はメールが続いたとしても、すぐに途絶えてしまうことが多かった、という。しかし、今回は、キャバ嬢はマメにメールをよこすタイプだった。その営業熱心さに、「かわいくはないけど、また行ってみよう」とは思っていたようだ。
数週間経った頃だろうか。その男を含め4人でキャバクラに行く機会があった。ある店の半額イベントデーだったために、みんなで行こうとなった。その店で過ごした時間が楽しかったのか、その男が「もう一軒行こう」という話になった。そこで男の頭に浮かんだのが、営業熱心なキャバ嬢がいる店だった。
この段階でいつの間にか、一人がはぐれてしまった。彼が客引きと話をしている姿があったが、いつの間にかどこかへ消えてしまったのだ。
仕方がないので、3人で行くことになった。店の前で話を聞くと、本指名だと正規料金で高額なのだが、場内だったら初回料金(つまり、1セット目は安い料金)で可能という話だった。「場内」でもいい、ということになり、店に入る。
男が場内指名をすると、指名嬢がやってきた。指名嬢は「びっくりした」と、うれしそうに言ったのだが、すぐに、「なんで場内なの? うちは、場内だと意味ないんだけど」と言ってきた。本指名ではないとポイントがつかないというのだ。
しかし、いきなり、そんな話ですか。「本指名ではないと意味がない」と、まだ2回目の客に言いますか? 男は若干、キレかかる私も同様だった。
たしかに、キャバ嬢の気持ちも分からなくはない。どうせ来てくれるのなら本指名のほうがポイントになるし、素直にうれしい。でも、それほどの仲でもなく、たった2回目の相手に、「場内だと意味がない」なんて、普通は言わない。
しかも、再び、マイナス営業になった。店側に聞くと、「団体客がいるので」と話してきた。みると、確かに団体客はいるが、そこにもキャバ嬢が1対1でいるわけではない。この店は、ちょっと人数が入るとマイナス営業になるくらい、キャバ嬢がいないのか? と思ってしまった。
もし、そうなら、ちゃんと入る前に言えよ、と不親切な対応にいらだった。こんな対応をしているから、どんどん歌舞伎町から人が減って行くんじゃないだろうか。もちろん、歌舞伎町浄化作戦のために、夜の街に人は減っている。しかし、お客は、よい店にはつくもんだ。
こんな対応の店ばかりだったら、もう歌舞伎町は死んだ、と言われても仕方がない。ただ、そんな店のために、歌舞伎町のイメージが悪化してほしくないとも思う。こんな対応の店は、この店だけだと思いたいが、こうした店は自然淘汰されていくだろう。半年後にはないかもしれない。サービスが悪い店は消えて行く。そして、また新たな店がつくられ、評判のよい店になっていく。歌舞伎町なそんな街だ。
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
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