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USA発 新聞、テレビではわからないMLB「侍メジャーリーガーの逆襲」 ダルビッシュ有のトミー・ジョン手術 スポーツ紙が報じない七つの真実

 キャンプイン早々、レンジャーズのエース・ダルビッシュ有がヒジを痛め、3月17日にトミージョン手術(ヒジの側副靭帯再建手術)を受けた。
 手術が米国を代表するスポーツ整形外科医ジェイムズ・アンドリュース博士の執刀で行われたこと、手術はフロリダ州にある同博士のクリニックで行われたこと、トミージョン手術に踏み切るにあたっては3人の高名なスポーツ整形外科医の診察を受けたことなどは、スポーツ紙等で報じられているので、この項では報じられていない部分に焦点を当ててみたい。

1:今季の年俸12億円は?
 全額支払われる。ダルビッシュのような契約規模が100億円を超える長期契約選手に関しては球団が保険に入っているので、ダルの年俸の8〜9割をそれでカバーできる。レンジャーズが負う経済的なダメージは、実はそう大きくない。

2:手術費用は?
 30年前は先端医療だったトミージョン手術だが、いまは高校生がよく受ける一般的な手術になった。それでも医療費がバカ高い米国では平均250万円かかる。米国の医療は定価がないので全米で最も高名なスポーツ整形外科医、アンドリュース博士のクリニックなら、この1.5〜2倍ほどの金額になると思われる。
 日本でもトミージョン手術は広く行われているが費用は30〜40万円程度。健康保険が適用されるケースが多いので、実質的な支払は10万円程度で済むケースが多い。

3:ダルが受けたトミージョン手術の特徴は?
 トミージョン手術は通常、痛めたヒジの腱を切除し、反対側の腕(ダルの場合は左腕)の手首の腱や太腿の腱を移植することが多いが、今回の手術では左腕ではなく同じ右腕の手首の腱が右ヒジに移植された。

4:なぜダルビッシュは日本でトミージョン手術を受けなかったのか?
 チームドクターの権限が大きいからだ。大リーグ球団はチームドクターになっているスポーツ整形外科医に高額の報酬を支払っていると思っている人が多いが、実際は逆。チームドクターの所属する大病院や地元のスポーツ整形外科医のグループが年間50〜150万ドル(6千万〜1億8千万円)を球団に支払ってチームドクターのポジションを得ている。人気選手の主治医になると大きな宣伝になるからだ。
 選手の手術をコントロールする権利はチームドクター側にあるため、チームドクターがヒジの手術の専門家であればその医師が手術を受け持つケースが多い。ただレンジャーズの場合は、チーフ・チームドクターのマイスター博士が肩とヒザの専門家であるため、ヒジの第一人者であるアンドリュース博士に委ねられた。
 トミージョン手術に関しては日本にも得意にしている医師がけっこういる。日本とアメリカ両国でヒジの手術(ヒジの遊離物の除去手術)を経験した投手の話では、手先の器用な日本の医師の方が手術痕のひきつれが少なく仕上がりが上手だという。トミージョン手術に関しても日本で受けた方がいいという声が少なくない。

5:手術が失敗し再起不能になる確率は?
 10%前後ある。日本人大リーガーの投手では過去に5人(大塚、田澤、松坂、和田、藤川)がトミージョン手術を受けているが、大塚晶文は2度トミージョン手術を受けたがどちらも失敗に終わり再起できなかった。大塚はヒジを痛めた'07年当時レンジャーズに在籍していたため、マイスター博士の助言でトミージョン手術のメッカであるロサンジェルス・センチネル病院のヨーカム博士の執刀で手術を受けたが失敗。2年後、再び同博士の執刀で2度目の手術を受けたが、この手術も成功しなかった。

6:トミージョン手術で球速が増すのは本当か?
 球速が増すのは1〜2割程度。広範囲な調査では平均3キロ、スピードが落ちるという結果が出ている。手術を受けた5人の日本人投手の中で球速がアップしたのは田澤純一のみ。
 田澤は'10年4月(当時24歳)にダルと同じアンドリュース博士の執刀で手術を受け、復帰後、速球の平均スピードが144.4キロ('09年)から151.2キロ('14年)にアップした。スピードがアップするのは20代前半の投手が多い。これは若い投手の場合、リハビリで体幹が鍛えられるからだと言われている。逆に松坂大輔や藤川球児のように30代前半でトミージョン手術を受けた投手は、球速が平均して3〜4キロ落ちている。
 ダルビッシュはもう28歳で若手と言える年齢ではないので過大な期待は禁物だ。

7:復帰はいつか?
 いちばん可能性が高いのは来年6月だ。5月途中からマイナーで投げ始めて順調なら2〜3週間でメジャー復帰になるだろう。
 3月にオープン戦で投げ始めて来季開幕からメジャー復帰と予測する向きもあるが、アジア系の投手は復帰を急ぐとことごとく悪い結果になっている。松坂大輔は11カ月半でメジャーに復帰したが球速、制球とも7割程度の出来でメッタ打ちに遭うケースが度々あった。藤川球児は術後10カ月で紅白戦に登板し、腕を痛めている。
 ダルの契約は'17年まであるので、レンジャーズは復帰を急がせない可能性が高い。

スポーツジャーナリスト・友成那智

ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は各媒体に大リーグ関連の記事を寄稿。'04年から毎年執筆している「完全メジャーリーグ選手名鑑」(廣済堂出版)は日本人大リーガーにも愛読者が多い。

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