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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 ギリシャ「占領」が始まった

 ギリシャのチプラス首相は6月29日、翌日に返済期限が迫るIMF(国際通貨基金)に対する15億ユーロについて、返済不可能との認識を示した。ギリシャのIMFへの返済が滞っても、延滞扱いになるだけなので、全面的な債務不履行を意味する「デフォルト」にはならない。しかし、ギリシャは7月20日に35億ユーロという巨額の国債償還を控えており、これが支払えなければ、デフォルト扱いになるのは確実だろう。

 こうした大混乱のきっかけを作ったのはEUだった。EU19カ国が6月27日に緊急の財務相会合を開いて、ギリシャへの支援を6月一杯で打ち切ることを決めたのだ。これを受けて、ECB(欧州中央銀行)も、ギリシャへの融資枠をこれ以上拡大しないことにした。
 ギリシャは、EU、ECB、IMFのトロイカ体制から金融支援を受けてきた。EUが支援を打ち切り、ECBが追加支援を見送ったら、ギリシャの債務危機が再燃し、世界経済が混乱するのは当然だ。現に、29日の株価は前日比で米国は2%、日本は3%も下がった。今後の成り行き次第では更なる下落も懸念される。
 また、ギリシャに対する最大の債権者はEU諸国なのだから、もしギリシャが債務不履行に陥れば、一番困るのはEUなのだ。それなのになぜEUは、ギリシャを追いつめるような真似をしたのか。

 実は、EUを仕切っているのはドイツだ。ドイツのメルケル首相は、新自由主義者だ。だから、EUがギリシャに突き付けた財政改革案は、年金支給の削減、公営企業の民営化、付加価値税の生活必需品や観光地に対する軽減税率の撤廃といった新自由主義の色濃い政策だった。
 しかしギリシャは、のらりくらりとその要求をかわし続けて、ようやく7月5日に、EUからの財政改革案を受け入れるかどうかの国民投票を実施することにした。ところが、ギリシャ国内では、改革案に反発する声が強い。そこでメルケル首相は、改革案を国民投票で受け入れるように、ギリシャ国民に圧力をかけたのだろう。
 メルケル首相の思惑通りに、資金を封じられたギリシャの銀行は休業に追い込まれ、ATMも円換算で1日8000円しか預金を引き出せない状況となった。生活に危機感を抱いたギリシャ国民が、国民投票でEUの財政改革案に賛成すれば、ドイツの軍門にギリシャが落ちることになる。

 本稿執筆時点で国民投票の結果は分かっていないが、私は、ギリシャはEUの改革案を拒否すべきだと思っている。ギリシャが欧州に残された最後の社会民主主義の牙城だからだ。例えば、ギリシャの年金は55歳から支給され、給付水準も高い。EUはそのことを目の敵にしているのだが、国民からみれば、実に優しい制度なのだ。
 EUの改革案を受け入れても、そのあとは弱肉強食社会の茨の道が待つだけだ。それよりギリシャはユーロから離脱して、通貨を元のドラクマに戻すべきだ。そうなれば、ドラクマの為替レートは大幅に下がる。安い通貨の下で、ギリシャは輸出の拡大と観光客の大幅な増加によって、経済を再建することができるだろう。
 ギリシャ国民は、当面の安定ではなく、明るい未来を採るべきだ。

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