評論家諸氏の開幕前のペナントレース予想でほとんどノーマークだったロッテ、ヤクルトだが、「ロッテVある」と大胆予想をしていた人がいる。元V9巨人の一員であり、巨人、ダイエーなどでコーチを歴任、現在日本プロ野球OBクラブ(社団法人全国野球振興会)会長の黒江透修氏だ。
スポーツ紙上で「昨年は5位だったが、今年は躍進すると見ている。金泰均の加入が大きい。4番を十分任せられる。3番は実績のある井口がいる。5番に座るであろう大松も成長しており、クリーンアップがしっかりして打線が良くなった。順位予想は2位としたが、好スタートを切って勢いに乗っていけば、優勝もある」と断言。このスポーツ紙の見出しも「黒江氏が大胆予想」となっていた。もっかのところを見れば、堂々たる予想だろう。
が、慧眼の黒江氏でも1位に日本ハムをあげており、ロッテに次いで2位にいるオリックスは最下位予想にしている。ここ数年のパ・リーグのペナントレースは、監督時代のソフトバンク・王貞治球団会長の言葉通りになっている。「パ・リーグはどこのチームも1位から6位の可能性がある。良い言葉で言えば実力伯仲のペナントレース、悪く言えばダンゴレースだからね」と。お説の通りだ。
王監督最終年の一昨年のソフトバンクは最終戦で負け、最下位。対する勝った野村監督率いる楽天が5位。が、昨年は楽天2位、ソフトバンク3位。対照的に一昨年、日本一の渡辺西武が4位に転落。同じく2位と大躍進したオリックスは最下位。こう見てくると、パ・リーグの場合は、前年度下位に沈んだチームは買いになる。昨年最下位のオリックス、5位のロッテの大躍進も、過去の裏付けのある王理論からしても、何の不思議もないことになる。
もう一つ、面白いのは評論家予想の裏読みだ。自らが在籍した古巣チームへの配慮から優勝予想するのは日常茶飯事だし、過去の恨みからの下位予想まである。監督を解任された野村克也氏の楽天に対する「最下位と言いたいところを5位にした」はその典型だし、黒江氏の大胆予想「ロッテの優勝もあり」も勘ぐると、意味深長ではある。
というのも、バレンタイン第1次政権下(1995年の1年間)で、二軍監督を務め、優勝した黒江氏は、最初で最後の悲願の一軍監督就任を逃しているからだ。バレンタイン監督が広岡達朗ゼネラルマネージャーと正面衝突して退団。球団側からの呼び出しに「後任はオレだろう」と担当記者を引き連れ、胸を張って球団事務所に行くと、まさかの解雇通告だった。「ケンカ両成敗で、広岡体制も一掃することになったので、黒江さんには申し訳ないが」という理由だった。「コーチとして巨人、中日、西武、ダイエーと優勝してきた。ロッテで二軍監督としても優勝した。あとは1度だけで良いから、一軍の監督をやってみたい」というのが、黒江氏の悲願だ。
あと一歩だったロッテ監督の夢。そして、バレンタイン前監督との因縁。それだけに、「同じ九州出身の後輩の西村徳文新監督体制にエールを送っているのは、いまだにバレンタイン憎しがあるのでは…」という怨念説まで出ている。