GIレースの直前ともなると、そのレースに管理馬を送り出す当事者からはなかなか本音が聞こえてこない。勝ち負けの判断を下すには、まったく関係ない陣営を当たるのもひとつの手だ。
「あの馬にやられるかもしれへんで」。水分をたっぷり含んだウッドチップに脚を取られつつ、メタボ特捜班が栗東坂路のコース脇の小道を歩いていると、そんな声がやたらと聞こえてきた。あの馬とはズバリ!オーシャンエイプスだ。
目の肥えたプロたちをうならせるその動き。デビュー前からケイコ駆けすることでは一目置かれていたが、最近、さらにその動きに磨きがかかってきたのだ。実質的な追い切りとなった1週前の栗東坂路。エイプスは800m51秒1という好タイムをあっさり叩き出した。見ていた者だけではない。美浦から駆けつけて騎乗した吉田豊騎手が「すごいですね」と仰天した豪快デモだった。
「ウチの厩舎でわざわざ(美浦の)ジョッキーに乗りにきてもらうのは珍しいこと。反応が良すぎる馬で、そのあたりは強みでも弱点でもある。感触を確かめてほしかったんです」と古川助手。ただ使うだけではない。勝つという意気込みがこんなところからも伝わってくる。
デビュー戦の衝撃的な勝ちっぷりからディープインパクトの再来と評されたほど。昨年のきさらぎ賞では菊花賞馬のアサクサキングスを抑えて1番人気に支持されたが、3歳春はソエなどの体質の弱さから泣かず飛ばずが続いた。
“潮流”が変わったのは休養明けの昨年9月から。6戦4勝とすさまじい勢いを保っている。
とくに前走のオーストラリアTは上がり3F33秒4の切れ味を発揮した。「前走の内容ならGIでも通用するはずだし、最近は精神面でも大人になってきっちり力を出せるようになってきた」
幻に終わりかけたGIの夢。しかし、ようやくここまできた。「やっと念願の舞台に立てる。相手は強くなるけど、ペースが速くなる分、折り合い面とかレースはしやすいはず」と古川助手は色気たっぷりに締めくくった。一気に頂点を極める可能性も十分だ。