9月16日には今年度の国内自動車販売を、当初目標の77万台から72万5000台(65減)に引き下げた。市場の低迷や新型車の不振で4〜8月の販売が前年に比べ14%も落ち込み、市場全体の落ち込み幅(前年比5%減)を大きく上回り、「どう転んでも目標が達成できないと悲鳴を上げた」(関係者)のが実情だ。
国内販売の下方修正は何も今回に限らない。昨年度は当初、前期比20%増の103万台を掲げて「トヨタ追撃」をぶち上げた。ところが主力のハイブリッド車『フィット』がリコール騒動に直撃されたあたりから雲行きが怪しくなり、10月には目標を10万台減の93万台に修正した。今年の1月には82万8000台に再び修正したが、結局は前期比7%減の78万8000台にとどまった。
期初予想から25万台の落ち込みである。しかも快進撃を続けるライバルを尻目に、2度の下方修正を余儀なくされたのだ。世間の目には「ホンダの独り負け。悪あがきが始まった」としか映らない。結果、これが命取りになって拡大路線の旗振り役を務めた伊東孝紳社長(現取締役相談役)が退陣に追い込まれ、それまで後継レースでは下馬評にも上がらなかった八郷隆弘社長が誕生した。前出の関係者は辛らつだ。
「続投をもくろんだ伊東さんは有力OBなどに外堀を埋められて失脚した。追放すれば“クーデター”と見られるため、相談役に祭り上げられた。八郷さんは社長の登竜門というべき本田技術研究所の社長経験がない。異例の大抜擢自体が、伊東さんの影響力阻止を最優先した結果です。2月末の交代会見で彼が目を真っ赤にして無念さをにじませたことが、奥の院での壮絶な暗闘を物語っています」
しかし“若葉マーク”付きの八郷社長の下、再びの下方修正である。販売不振は業績に直結するだけに、ホンダ・ウオッチャーが「今後とも深刻なクーデター後遺症を引きずりかねない」と危惧するのも確かに無理はない。
これに輪をかけて悲惨なのが、7年ぶりに復帰した世界最高峰の自動車レースF1だ。2015年の開幕戦となったオーストラリアGP決勝(3月15日)は、マクラーレン・ホンダのうち、欠場したフェルナンド・アロンソの代役ケビン・マグヌッセンがスタート前のトラブルでリタイア。もう1台のジェンソン・バトンは完走した11台の最下位と、参戦早々から惨めな結果だった。
その後もホンダ勢は不振を極め、最近でもイタリアGP決勝(9月6日)ではジェンソン・バトンが14位、フェルナンド・アロンソは電気制御盤の不具合でリタイア。その直後のシンガポールGP決勝(9月20日)では、今季4度目となるダブルリタイアを喫する始末。復帰に際し、伊東社長(当時)は「ホンダはチャレンジしなくてはいけない」と大見得を切ったが、無残な結果ばかり続けば八郷社長サイドから“見直し論”が噴出しかねない。
何せコンビを組むレーシング・チームのマクラーレンは、かつて伝説のドライバー、アイルトン・セナを擁し、1988年には圧倒的な強さで全16戦中15戦を勝利した栄光の歴史を持つ。そのマクラーレンと二人三脚を組んだこと自体、ホンダには相応の打算と計算があったはずだ。従って、年間100億円単位のビッグマネーを注ぎ込んでも成績がパッとせず、これ以上の恥の上塗りが続けば、見直し=撤退論がにわかに勢いづく。
これには伏線がある。八郷社長の就任早々、ホンダは2020年をメドに社内の公用語を英語にすると発表した。外国人の社員が参加する会議や本社と海外拠点で共有する文書は基本的に英語となる。グローバル企業、ホンダの面目躍如だが、実は失脚した伊東前社長、ユニクロや楽天が始めた英語の社内公用語化に対し「日本人が集まるここ日本で、英語を使おうなんてバカな話だ」と一蹴したことがあるのだ。八郷社長の決断は前任者の否定に他ならない。
「だからこそ社員には『F1だってどうなるか分からない』との複雑な思いがある。何といっても事実上のクーデターで担ぎ出された社長ですからね。F1どころか、業績次第では大枚を注ぎ込む余裕さえなくなる。ホンダのファンは、それを恐れています」(担当記者)
前期で屈辱の“独り負け”をアピールしただけでなく、迷走するホンダは、ついに正念場を迎えている。